小さな世界のために7

 吃音は、単に言葉が出ないことではない。

 物忘れや言い回しに困って単語が口から出ない経験は誰にもあるだろうが、吃音は口に出したい単語が強烈に脳裏に浮かんでいる。口に出す一歩手前、いわば口腔内に単語が溜っているのにもかかわらず、外に出せない。結果的に不格好などもりとなってしまう。

 どもった時、笑われるのは珍しくない。それが嫌で口ごもったり、口数が少なくなる。

 相手や文脈によっても違う。どもっても笑い飛ばしてくれたと気が軽くなる相手もいれば、笑い者にしやがって今畜生と恨みを持つ時もある。それは同じ行為を受けても、相手によって嬉しくなったり、セクハラと感じたりするようなもので、心理によって生み出される被害意識でもある。

 今思い出しても、怒り心頭になる顔がいくつか思い浮かぶが、優しさとともに懐かしみたい相手もいる。

 だが、どちらにせよ、たどたどしい言葉を発した後、相手の侮蔑や寛容といった顔色を、怯えながら伺わなければならないという点で、わたしはどもる度に卑屈にならざるを得なかった。