でかいゴキブリ

夏のゴキブリは
大きくて速くて
よく育っている

若々しさが
なおさら毒々しく映り
躊躇なく
叩き殺した

それに後悔はないが
厄介なのは
心の中に巣食う
ゴキブリじみた記憶が
頭をもたげること

叩き潰せればいいのだが
そんな手立ても知らないし
そもそも
自分の心など叩ける訳がない

どす黒くて
薄気味悪く
おぞましく
呪詛のようにまとわりつく

瘴気に囚われれば
汚い言葉が次々と生まれ
暗い思考が連鎖する

しかし憑き物が落ちれば
なんのことはない
家族や友人と笑い合う時が戻る

夜の暗さにうずくまるから
日が昇るのが
きれいに思える

ゴキブリは必要だ
ゴキブリになってはいけないが
ゴキブリという黒い物体が
人の闇も汚点も気づかせるのだから