2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

下山

終わった 終わった 心は軽くなった もう踏ん張れない下り ガクガクする膝とともに 転がるように下りる 下り用心などという言葉は 満ち溢れる開放感の裏返し 名残惜しさはない ただ もう来られない思いが湧く 充実だったのか 徒労だったのか 分からないまま …

山頂

登頂した 達成感も 充実も あまりない ただ もう足を動かさなくて良い 登りからの解放で 安堵に満ちている 風に吹かれ 雲海を眺める 遠くの山が ポツリポツリと顔を出し 雲の上に浮かんでいる 疲労にまみれた全身に ろくな考えは浮かばない 呆然と眺め 眼に…

九合目

尾根の先に 終わりが見える 頂の空を 雲が走っている 止まると へたり込んでしまいそうだ 疲れを感じる神経にすら 気が行き届かない 目先だけ向いて 目はうつろ このまま 惰性で進むのみ もう終わるのだ 終わりなのだから

八合目

森林限界を越えた とおく続く瓦礫の尾根は 折れ曲がりながら 山頂へ向かっている 体力は尽きた 焼けつく痛みが 下半身に走る 靴の中の足は 豆でぐしゃぐしゃだろう 痛みすら 麻痺したようだ ただ 顔は上を向いてきた 行くしかない 行くしかないんだ 終わりは…

七合目

大きな山頂を眺めながら 休む 疲れた 疲れ果てた 歩きたくない 動きたくない 陽は未だ 上りきらず ジリジリと 肌に照りつける やめるなら ここが最後 石に腰掛け うつむき 自問自答する つらい しんどい だが ここまで来た 行けるか 大丈夫か 不安ならやめろ…

六合目

体が熱くなり 腿と尻には 鈍い痛みが走る 爽快さは消え 疲労が体に広がって 余裕は消える ここが山場 もっとも苦しいところ 体は動くが 痛みも大きい 目線は 徐々に下を向き 一歩 また一歩と 意識が足元に集まる ここを耐えれば 痛みは突き抜ける

五合目

ようやく頂上が見えてきた 疲労が湧き上がる 関節が痛む しかし まだ上を向ける 滴る汗を拭き 景色を眺めれば 眼下に広がる街は もう遠い ここまで来た あそこまで行く 視界良好の中に 決意が滲む

四合目

坂道が ルーティン 腿と尻と ふくらはぎに 疲れが出る しんどくなったら 腕を振れ 腕で登れ 前を向け 最後は 気力で登る 今は 体力で登る 山道らしい 辛抱がはじまった

三合目

ああ息が上がった 疲れがやってきた 道端の石に腰掛け 汗を拭う 山頂は大きく いまだ遠い 滴る汗が 石に落ちて 雫が跳ねた まだ まだだ これからだ 意思は 静かに燃えている

二合目

体は温まった リズムに慣れ 速さも掴んだ 鼻歌を出しながら 歩きながら 体の中を 点検する 疲れはじめるのは どこからか 膝は 足首は 呼吸は 順調の中に 不安を探す 道端の花も 日差しも感じながら 今のわたしは 体中がセンサー

一合目

山道は ゆっくりと 傾斜を上げた 体は 徐々に温まり 背のリュックの重み 反復する靴音が 馴染んでくる 疲労はない ただ予感のみが漂う

登山開始

気合と覚悟を抱き 登り始める 緑の山道 鳥の鳴き声 ここは まだのどか 気ばかり焦って 足が速くなる 同時に心は 先は長い 慌てるなと 語りかけてくる 疲れも 痛みも これからのこと 潜り込んだ今 山の姿は見えぬ

本物の山

青く遠く 高くそびえていた山が 目の前に 大きさ 険しさ 無骨な荒々しさに 圧倒され 登るのを 尻込みしてしまう 登らねばならぬのに

常夜燈

暗闇を ほんのり照らす あたたき常夜燈 いつもあり いつも変わらぬ 存在すら忘れ 無くなって はじめて気づく あってもなくても 同じなのでなく あることが 当たり前で 有難みすら忘れ 誰も気に留めなかった そんなものもある それでいいなら それもまたよし

齢をとって足掻く

自分には居場所がない 安住の地がないと 騒ぎ 叫び 地団駄を踏み かなしくてかなしくて さびしくてさびしくて 子供みたいに いつまでも 泣き言をやめない いい歳した おっさんたち そんなもの 当たり前だろ 安息など 夢のまた夢 ここにはないし どこにもない…

文友

かつていた 文学の友よ どこへ行った どこまで堕ちた 形なき 紙の上の精神を 追い続け お前は 何を得たか 文字の羅列に酔い 言葉の魔力を信じ 文学に 夢を託していたお前 今でも 文章を読んでいるか 文学を信じているか 道半ば 隠れるように 去っていったお…

あいつが死ぬまで死ねない

この街を徘徊する 奇妙な男 でっぷり太り 酒浸りで 酒場のはしごに次ぐはしご あいつとは いろいろあった 酒も飲んだし 喧嘩もした 多くの呑助が 離脱していく中 あいつだけは しぶとく 生き残っていた あいつは 病気になった 俺も 病に倒れた それでも あい…

夜の音

蠢く 見えない虚空が 歪んで ざわめいた 名残が漂い 未だ 存在は消えず 音の余韻 震えた空気 基軸を失い 時は失われ 間と対峙するのみ 遠くに響く 風のうなり 時は動き出した 記憶は 再び感覚を収め始める もう 何度目のことだろう 無くなっては 戻り 失って…

チリリン

チリリン 季節外れの風鈴の音が どこからか 流れてきた チリリン それは 自転車のベルだった チリリン ろれつの回らない 男の声がきこえる チリリン ベルを鳴らし 男は女に絡んでいた チリリン 女は犯されていた チリリン 破れた服の間から 女の垂れ下がった…

説経節

こう生きろ こうしていけ これはするな あれは駄目だ 決められるのは 好きじゃない だから 決めるな 強いるな 説教を垂れるなと 言い続け いつの間にか 自由礼賛の 説経節に呑まれていた ああしろ こうしろでなく ああするな こうするなでなく 模範のない世…

二度と訪れない時の何度目かのふて寝

今日 この時は 二度とない 二度とない時間の積み重ねで 人生が埋まる 全てが二度とない 常に二度とない いつも二度とないものだから 二度とないことが ありふれて 有難みがない 二度とないのなんて 当たり前 当たり前を 無為に過ごすから 贅沢だ 貴重な時間…

豊年エソ

豊年 願う 村々に 氏神の 祠ありて 黄金色の稲 高い空に 秋風が吹けば 実りの匂い 一面に広がる 豊年 村の隅々に 山の端に 海の底まで 願う たどたどしい 語りと踊り 反復だけの音 哀しい笛 実りの終わりに 夜は更けて 寒さに怖じ気 家へ帰る 豊年 願いの声…

チクる前に殴れ

嫉妬や怨念 執念に復讐 醜いとは思わない 軽蔑 侮蔑 見下し 忌避 己を相手と 別の次元と捉え 蔑み 馬鹿にする こんな奴らのほうが 醜悪だ 馬鹿は相手にしないとか 同じレベルに付き合うな などと言う態度のほうが はるかに差別的であり 露悪である 恨むなら…

達観

達観は嫌いだ 如何なる天才であろうと 50年 100年程度で 世界を理解できるわけがない 悟ったような 分かったような素振りで 激情の流れに 触れることを避け続け 賢く生きているような気になって それがスマートだと 思い振る舞う輩とは 絶縁する 誰もが 傷つ…

秋風心に吹いて

うらぶれ長屋に 秋風が吹けば 障子の隙間が ぴゅうぴゅうと 音を立てる ゴキブリ ねずみが騒ぎ出し 冬の手前の 一騒動 ああ夏よ 過ぎ去りし夏よ 動き 日を浴び 汗にまみれた おまえとは 二度と会えない気がする 秋風は 背に一筋の寒気をもたらせて わたしは …

安息の地にて

美しい自然より 壮大な叙事詩より 場末の うらびれた 貧しい者たちが たどり着く所こそ わたしの安息の地 夢も希望も 名誉も出世も もはやない それでも 生きて 酒を啜り 肩書きに拘らず その日 その時 その場さえ 楽しければいと 毎日を過ごす生き方 潔い …

抜け殻

疲れ切った やりきった もう何もない 動けない 考えられない 眠ることも出来ず かと言って 他に何も出来ず 固まった体と頭で ただ待つのみ 幸福もない代わりに 不幸でもなく 考えられないだけ 悩みもない 硬直と停滞の もどかしさと 心地よさ 石ころが 道端…

徹夜作業

徹夜の仕事は 誰もが寝静まり 物音一つしない空間で 黙々と作業をする 祈りにも似た 静寂の中の精神集中 時はあっという間に過ぎ 合間に 新聞配達や 鳥の一声 犬の散歩の気配が交じり 夜が明けてゆく 疲労困憊 意識混濁のうち 追い詰められた瀬戸際を 乗り切…

ゴキブリカラカラ

ゴキブリを箸で摘んで コーヒーの空き缶に入れた カラカラ カラカラ カラカラ カラカラ 缶の中で 動き回る音と 振動が 伝わってくる 生命の音 生命の震え このまま 缶は 二度と開けられることなく ゴミとなって 消えてゆく 命を弄び だが 殺さぬわけにもいか…

割れる

茶碗が割れた 音が 切り裂いた 頭に 電気が走った もう戻らない そう思ったとき わたしは もう 茶碗が割れた時の わたしでない 思い 反応 感想 記憶の引き出しから 言葉を選び出した それは もう 不純で 心は 人間の営みに 戻っていた