どれほどの富を得ても 人は幸せになれるとは限らない だが 金が無いために 不幸になる人はたくさんいる 人は食べるために生きるのではない だが 食べなければ生きられない 金を稼ぐために生きるのではない だが 金が無いと追い詰められる 金は便利だけれど厄…

コザの坂を下り 十字路を徘徊する影 日に焼けた肌と髪が とぼとぼと 国道を横断する 兄ちゃん百円持ってないか ベトナム戦争の活気と暴動は はるか昔に過ぎ去った 取り残された建物は廃墟と化し 取り残された人は徘徊者となった 兄ちゃん百円持ってないか こ…

昼下り 南国の市場の食堂 乱雑に積み上がった古雑誌 薄暗いテーブル 窓の外の強い光 ぬるい水 生ゴミの腐った匂いが流れてくる 緩慢に流れるテレビ 動かない老婆 眠っているのか起きているのか 生きているのか死んでいるのか 保温を繰り返した茶色い飯 丸焦…

寒さは遠のき 新緑が深緑へ色を変える この頃の陽射しは 強く 真っすぐで 自立している 照らされた背中に 熱を感じる 迷いのない 光の強さと 太い骨格と 濃淡の明確さ 青年のような季節 未だ光が強まる予感 前だけを向いていられる時 そんな機会を待っていた…

人の住むところには 喜怒哀楽があり 昨日の場所で笑う者と会えば 今日は泣き顔が目に入る かつての美貌が 疲れ切ってやつれ いつかの辛苦が 記憶の彼方に忘却され 立ち止まることのない変化を続けながら 幾多の循環する生死に取り巻かれ 私もまた多くの人を…

16日間出かけます。

長い旅に出る 見たことのない風景 会ったことのない人々 不安より期待が大きい 旅は非日常 現実からの逃避 煩わしい全てを振り切って 未知へ己を放り込む 収穫など期待しない よい思い出など願わない しかし 旅に出ることは 前を向くことで 不確定に身を投じ…

かつて人が住み 人が働き 人が笑い泣いた 人が消え 残骸が残る 打ち捨てたサンダルと三輪車 錆びた蛇口 割れた食器 生活の残臭から 立ちのぼるのは 決して幸福ではなかった 廃墟はもの哀しい この場所で かつて 何かが崩壊した 壊れてから 誰も手を付けず 世…

陽射しが強くなれば 影も濃くなり 濃淡と明暗が はっきりと 目の前に現れる 陽のあたる場所で 熱さに身を焦がし 強い光に照らされれば 影に潜むものは見えない 影に佇み 動かずにいるなら 陽が当たるところは 眩しいだろう 日向にいれば 影に入って休みたい…

井戸を掘った 5メートル 10メートル 15メートル掘って 水が出た すぐに水は止まった 20メートル掘って 水が出て止まり 25メートル掘って 水が出て止まり 30メートル掘って 水が出て 止まりかけて 止まらなかった 水は濁って か細い糸をひくように 流れた 初…

子供の頃は 日曜よりも土曜 土曜よりも金曜の晩に心が弾んだ なぜなら 月曜に学校が始まるのが憂鬱だからだ 旅に出れば 旅を愉しめば良いものを いつ旅が終わるのか 気にかけるばかり 人生の只中にあるのに その終焉ばかり気に病んで 人生を楽しめない たっ…