2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

焦燥の秋

秋の風は 生き急ぐ人を弄び 豊かな実りの最中に 一抹の不安を かき立てる 黄色に染まる銀杏も 柿が赤く熟れるのも 来たるべく 冬の前に 一刻も早く その身を目立たせて 繁栄に ケリをつけたい衝動の果てに思え 豊穣で 穏やかな収穫の 次に訪れる 厳しい季節…

思い出すな

思い出すな 思い出すな 漆黒の海から 浮かび上がってくる 悪魔の子よ 隙あらば 這い出で 感情に手を伸ばし 私を狂わせる 過去よ 追憶よ 終わりし時の 亡霊たちよ 縛りつけ 押し込み いまだ 必死に歯を食いしばって 忘却の彼方へ 追いやっても 幾度も 心のい…

干からびた怒り

もう人に怒れないのか 不平不満 理不尽な扱い 怒りの種は いたる所に蒔かれ 萌芽の機会を伺う 過敏になれば トラブルはいつだって 呼び込める それが嫌で 人と争うのに疲れ 少しの我慢で 何事もやり過ごそうとする 処世術 人は歳をとれば 力を失い 代わりに …

水が美味ければ私は大丈夫

固まった世界に 体はガチガチになって 視界に膜が張り 視野は狭まり 生きているのか 死んでいるのか分からない なんとかして 動き出そう 殻を破って 停滞と困窮の今から 生き物としての 鼓動を取り戻す 思い立って 歩き出す 陽が天に昇り 傾くまで 一本の道…

家庭の中のささやかな暴力

切って 刺して 叩いて 砕いて 火であぶって 油で揚げて 釜茹でにして 練って 漬けて 絞って いまの世で封印された あらゆる暴力の素地が 料理には含まれる 食欲が人を料理に駆り立て 料理は暴力衝動を発露させ もはや 許されなくなった 刺傷 撲打 食材への …

餃子を包む

小麦粉を練って 寝かせて 伸ばして 手のひらに乗る 丸い皮 種は 豚肉 白菜とニラを 細かく ときに粗く刻み 塩で揉んで 揉んで揉んで 絞って絞って 水気を切る ニンニクと生姜 粗みじんとすりおろし 種に混ぜて 練って 練り込んで 塩に胡椒に 片栗粉 練って …

一杯のそば

大きな鍋に たっぷりの水 グラグラ 沸かして 一掴みの蕎麦 立ちのぼる湯気 躍る麺 熱い汁を 丼に張れば 湯切りした蕎麦が泳ぐ ねぎの香気が かつお出汁に乗って 鼻孔をくすぐる 濃い色合い 負けない麺の艶 塩辛く 香る あたたかい 秋の夜の 一杯かけそば

過去に喰われる

穏やかな今に 不意によぎる 思い出したくない 過去 記憶の扉の 奥の奥に閉まったはずが 抑圧の格子を くぐり抜け わたしを 襲う 後悔は 次々と立ち上がり 自分の人生 恥ずかしいことしか してこなかったと 一人赤面し うなされ 苦しんで 最後には 今の人生を…

ロウ アンド ロウ

高気圧の下で 秋は進み 緑の勢いも衰えて 日は傾く 湖畔には 水面を撫でた風が 快く吹き渡り 水辺に憩う子供や 体を鍛える学生 散策に訪れた老人が 屯している 一艘のボートが 鏡のような水の上を 滑っていく 何事もない日常 過不足無く 興奮も高揚も 失意も…

汽車の警笛

ディーゼル機関車が鳴らす 山野にこだまする汽笛 遠くまで響いて 私の耳に入る頃には 懐かしさと ノスタルジーをまとい 頭の中にしまった 思い出を呼び覚ます 今日も 人けのない 闇の中を 汽笛を鳴らして 爆進するディーゼルよ 迷わず 止まらず 音響かせて …

形だけでも

俳句や短歌 詠み人たちは 形式に どれほど苦しみ 救われて来ただろう 形が決まれば 動きも決まる 制限を受け入れて 枠の中で 自由に動ける 決まりに従う代わりに 無秩序の混乱に 陥らずに済む いま 日常にあふれる 心のこもっていない言葉 コンビニの接客 気…

囚われの時

隣の寝床で がなり立てていた いびきも 戻ってこない 存在は 見せつけられれば 憎々しく 無くなれば なつかしい 失われると 分かっていても 日常は 慣れの連続で 一つ一つの出来事に 有難味を感じていたら 感謝の時間に 追われてしまうから ありふれたものに…

逃亡の頃

何もないことが 何もできないことが 苦しくて 苦しくて苦しくて 忘れたくて がむしゃらに 打ち込んで 忙しくして 考えないで済むように 暇な時を作らないように 一直線に 突っ走って 決して振り返らないように 自分の中身を気にしないように 毎日 疲れ切って…

虚空の中のカプセル

世界は広くて 選択肢が多くて 選ぶことに追われて 満たすことに追われて 時間に隙間なく 空間に無駄なく みっちりと 詰まっている 濃密な時空が 息苦しく 放り投げて 無くしてみると ガラガラの 虚空 身を置くのすら 不安で モノのない 寂しさが堪える 何も…

水に潜って

目を閉じて 息を止めて 水の底に しゃがみ込んで 佇み 気泡と揺らめく音響を 聞いて 沈み込んで じっとしている ゆるやかに 流される体 重力のくびきが ほどけて 弛緩し 溶けてゆく このまま いつまでも ただのモノとして 身を任せ 流されていたいのに だん…

大事な人が死んだ

大事な人が死んで 私の心もなくなった 小さな心の 大きな柱が 崩れて なくなって どこにも 見つからない 命は続いても 命を燃やせない 大きなものが ごそっと取れて 空っぽで スカスカだ 何もなくて 何も入らない しぼんで 縮んで なくなってしまいそう 寒々…

広い世界の小さな私

世界は 広く広く拡がり 私は 小さく小さくなって 広大さに怯え 何もできない 世界を小さく区切り 箱庭の王様となって 得意気に振る舞うには 広さを知りすぎた 何もかもが ちっぽけで ここに書いている文さえも 取るに足らないと 分かってしまう 世界は広く複…

ただ死を見ている

人の命が燃え尽きるまで 横に佇み ただ見ている 力強かったロウソクの炎が 揺れ動き はためき 暴れて もがいて だんだんと小さく 消えていく時を じっと隣で 耐えている 傍観はつらく だが 代わることも出来ず 日に日に 弱っていく体を眺め 一緒にいながら …

労咳の隣夜

寝息荒々しく うわ言つぶやく 突然の咳 軽く早く浅く 連続した咳音に 痰が絡んで 粘度のある 大きく首の振れた 息詰まりそうな 咳への変調 これはいつの時代か 川の字で 隣り合って寝ている 結核の老いた親の 苦しみを 耳に聞いて 目を閉じ ただ夜が開けるの…

時に流されても

透徹した意志も 鍛え上げた体も やがて溶解し 彼方へ消える 時の流れは ゆるやかに 意志を積み上げ 体を作り上げ 継続の力を示しては その裏で 忘却の影を忍び寄らせ 緩んだ意識の間際に 人を怠惰へと誘い込む 意思など取るに足らない 全てが朧げに霞んで 人…

夏の終わりの生暖かい夜

生暖かい夜に 扇風機回して 夏の日の過去を 遡る 凪いで 留まり 溜まった 湿った空気が 錆びかかった 扇風機のエンジンと 虫の音と 風鈴を微かに鳴らして 子供の頃 蚊帳の中で 汗を流した肌と 蚊取り線香の煙を 思い浮かばせ 停滞した夜の 心地よさに 幾ばく…

人の苦境に張り切る人

風邪を引いた 怪我をした そんなときに なぜか張り切る人 普段の姿と 打って変わって 湿布をくれたり いろいろな薬を 勧めてくれる 心配性なのか 人の窮地に黙っていられない善人なのか ところが しばらくすると 善意だと思っていたのは 実は押しつけ 世話を…

停滞の日の安堵

どこかが 何かが もう一つ うまくいかない 信号待ちのタイミング 人とすれ違う道幅 店では 目当ての品が無く 食事をすれば 注文しても 料理がなかなか出てこない どれも これも 大したものじゃない 些細で つまらない イラつくほどでも 怒るほどでもない だ…

こんな日の、いつかのラーメン

レンゲでスープを啜れば 立ち上がる醤油の切れ 煮干しの香ばしさ みりんと鶏油の丸さ 玉ねぎに人参の甘み 褐色の液体は 小さな脂の粒が きらきらと光って その中を なめらかな麺が ツヤを放ちながら 泳いでいる 二枚の煮豚 分厚いメンマ 海苔 散りばめられた…

相克の超

大災害や事件が起きて 人の心に浮かぶのは 忘れたい はやく日常に帰りたい 忘れてはいけない 記憶を風化させちゃいけない 逆の想いが 入り乱れ 一人の心の内すらも 混乱し どちらが正しいも 間違いもなく 矛盾に苛まれることで いっそう 世界は複雑化して 人…

都市の隅の

喫煙所には 吸い殻の山 すぐ横に転がる チューハイの空き缶 虫カゴのような区画で 肩ぶつけ合い 片手にタバコ コンビニのワンカップ 洗練された都市が 追いやった暗部 街はきれいになり 道路にゴミも落ちてない だけど 人は簡単に変わらない 酒や煙草を 見え…

ただ穿つ

コツンコツン 都会の片隅で 目立たず 気づかれず 今日も穴を穿つ コツンコツン その音は いつも変わらず 休むことなく 小さなビルの中 四畳半の端 豆粒のような穴が 長い年月の間 指が入り 腕が入り 体が入るようになった その穴から 行き来して さらに下に …

人の世のつながり

はるか北の海で獲れたサンマが スーパーで 100円で売っている 大漁のニュースは テレビの中の出来事でしかないのに こうして 眼の前に サンマがあって 去年より安く売っている 人の世のつながりが 虚妄なのか現実なのか 海の向こうに 飢えている人がいて 食…

稲妻を床に見て

網膜のように 空に光の筋走り そこかしこに 雷鳴とどろく 大気は湿気に満ち 雨の匂い拡がり 降り出すのは もうすぐ また一つ 向こうに雷が落ちた 荒れ狂う夜空 稲妻はとどまるところ知らず ピカピカと 歓楽街のネオンと見紛うばかりに 次から次へと走り 止ま…