労咳の隣夜

寝息荒々しく
うわ言つぶやく

突然の咳

軽く早く浅く
連続した咳音に

痰が絡んで
粘度のある
大きく首の振れた

息詰まりそうな
咳への変調

これはいつの時代か

川の字で
隣り合って寝ている

結核の老いた親の
苦しみを
耳に聞いて

目を閉じ
ただ夜が開けるのを
待っている

江戸の長屋も
明治の貧しい家庭も

労咳の家族抱えた夜を
不安で長く感じながら

ただ闇の暗さに
耐えていたのだろう

熱にうなされ
汗にまみれた布団の湿気が漂い

ただ咳の音だけが響く
沈黙の夜