酔い覚めの夜

つらい つらいよ 夜の長さがつらい これまでのことや これからのこと あてもなく考えて 己の余地を殺していく 夜が明けて どうしようもない現実が迫ってくる ああなりたかった未来を 夢見ていた過去 もう実現など できようがない それは分かっているだろ 酒…

休みます

しばらく更新しません。 今年は読む。 とりあえず500作品ほど読んでから考える。

小さな世界のために16

保育園をやめた私は、一年と少し、何もせずに過ごした。 家族は私は社会性を身につける機会がないことを心配していたのであろう。5歳になる時、幼稚園に通うことになった。 初めての登園は緊張というより恐怖であった。怖い保母のイメージが繰り返し思い出…

小さな世界のために15

生まれて初めて社会と接点を持ったのは、保育園であった。 記憶など、ほとんどない。それは暗黒に彩られていた。保母たちは、常に気だるそうなやる気のない態度で、子供に対して露骨に嫌な顔を見せた。 昼寝の時間を、わたしは禅寺の道場として連想する。眠…

小さな世界のために14

父の言ったこと。 学問をやることの最も良いことは寛容さを養えることである。 この一言は、私にとっていまだに心に浸透している。幼き日の私にとって、父はどこかよそよそしい存在であった。仕事の忙しさもあってか、父はいつも寝ており、入婿のために肩身…

小さな世界のために13

母。 わたしにとって最も健全な関係を持つ相手であり、嫌悪の対象でもある。 幼き日、母は優しく、時に厳しく私を叩いた。特段、おかしな親ではなかったと思う。気に食わないと、私に対して「他から養子をもらってくれば良いのだから、あんたなんか家から出…

小さな世界のために12

叔母。 今思えば、わたしに最も似た人物と言える。 結婚もせず、仕事をするでもなく、家にいて、何をするでもない。でっぷりと太って、その体と時間を持て余していた。妙なオカルトにはまり、家に大きな神棚を作り、さまざまな仏像を飾っていた。それも宗教…

小さな世界のために11

祖母。 私の記憶の中で唯一、あたたかく、美しい思い出として揺らぐことのない存在である。 子供の頃から人との触れ合いが苦手であった。保育園など3歳で行かなくなった。高圧的な保母が嫌いで、何度も何度も泣いた。家にいて、幼いながらも引きこもりと同…

小さな世界のために10

酒。 10代の後半には飲んでいた。それはタバコと同様に、大人の振る舞いを真似て背伸びをしたいという誰もがもつありふれた動機だった。 格好つけるというには、酒は相応しくない。だが、酒の場が醸し出すだらしない会話を好んだ。ダラダラといつまでも続く…

小さな世界のために9

路地の夜に渦巻く気配は、欲望と警戒、嬌声と恐怖であった。 角に立つ街娼たち。取締の日には、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。それを私服の警官と思しき男性が走って追いかける。 どこからか女の悲鳴が聞こえた。男の怒号も。 深夜のアパートで、ドアの…

小さな世界のために8

路地。 生まれた家は憶えていない。生まれてすぐに区画整理があったからだ。 物心ついてから、二十年かけて、家から駅までの区画整理が行われた。わたしの成長に合わせたように、道は広く直線的に置き換わっていった。故に、子供の頃の家の周りには、まだ路…

小さな世界のために7

吃音は、単に言葉が出ないことではない。 物忘れや言い回しに困って単語が口から出ない経験は誰にもあるだろうが、吃音は口に出したい単語が強烈に脳裏に浮かんでいる。口に出す一歩手前、いわば口腔内に単語が溜っているのにもかかわらず、外に出せない。結…

小さな世界のために6

吃音。 気づけば、うまく喋れなかった。脳裏に浮かぶ単語を口に出そうとすると、咽頭が緊張し、「イ・イ・イイィー」と引きつった音を立てる。言葉を発しようとすればするほど、力みは増し、ますます歪な吃音が出るのだ。 失笑をかったのは数知れず。あるい…

小さな世界のために5

にゃーにゃ。 幼き日の母の呼び方。それは猫をもじったもの。 猫が好きだった。その佇まい、静かさ、我がままさ、群れをなさない自由な個のあり方。 子供の頃には、野良犬がいて街を徘徊していた。彼らは人を襲うことはなかったが、興味本位で近づいてきて、…

小さな世界のために4

生まれ落ちて、最初に覚えていること。 それは手の甲で眼を擦ることだった。眠りから覚め、目の周りについた乾いた目やにを擦ると、ジャリジャリとした感触が伝わる。その味わいは蠱惑的で、いつまでも止めることができない。 今でも起きたら必ず、毎日、子…

小さな世界のために3

後悔。 人生を後ろ向きに生きること。 これまでの人生が、人と比べてとりわけ不幸だったとは思わない。悲惨な出来事も幸運な記憶も一通り経験してきたつもりだが、決定的な断絶や過失はなかった。大したことのない人生であった。しかし、現在これほどの苦し…

小さな世界のために2

己を取り巻く絶望が問題であった。 内実などなくても良い。 ただ無力さに襲われないため、己を守りながら、安らかに死に向かう方法論が欲しかった。 世界の広さ、多様性、それらを知れば知るほど、自分の小ささが悲しく思えてくる。だから、複雑で魅力に溢れ…

小さな世界のために

無力に苛まれ、己を諦めていたうち、自責と自棄の念はますます膨らみ、己が無のまま終焉することの恐怖が募った。生に意味を見出だせず、朽ち果てゆく自分を想像し、何もかもが失われ、滅びるだけの残りの時に、絶望を感じながらも、歯痒さといたたまれない…

出かけます

一週間ほど出かけます。

心戻る❜

凍りついた心も 徐々に解れ 日常を取り戻してゆく 熱いも冷たいも 痛いも痒いも ゆっくりと 己の内に蘇る 傷つけど 壊れたままでなく 戻ってくるのだが その心は 以前とは どこか違って しっくりこない 失われた 何かを忘れてしまった 何十年も付き添った 誰…

欲望相反

冤罪で囚われ 長き年月を拘束され 全て終わり シャバに出てみれば 家族はいなくなっていた 何も分からず 慟哭する 何をすれば良いか 生きる意味すらも 失ってしまった ああ 私にとって 家族こそ 人生そのものであった 絶望と空虚 だが 意識の下 確実に潜み …

精神の死

地獄にいると 心が死ぬ 大変な労働の中 週に一日でも休みがあれば 何をするか 考えるだろう 何ヶ月か働いて 長い休みが取れるなら どこに行こうか 何をしようか 期待を胸に 現実に向き合い あれこれと夢想して 時を過ごせるだろう だが 休みもなく 果てもな…

生存

生き残った この月の地獄を 生き抜いた 体はボロボロ 心は麻痺して固まる 詩情など 残っているはずもない それでも 生きていられた 人が 短い間に 全精力を傾けて 一つのことをする 全てを燃やし あらゆる犠牲を払う それでも 何も残らない 何かを作ったわけ…

地獄が始まる

忙しいなんて いつも言ってる 身の危険が迫る 眠れないのは 当たり前 飯を食う暇もない 手を動かし 頭を働かせ 予定など 立てる余裕もなく 目の前の仕事を やるだけ 売れっ子の漫画家か 仕事ができるのか 身体はもつのか 考えるのは その二つだけ

素人の包丁

愚かであることを 悪と断罪したくなるほどの 愚行の数々 素朴な敵意を向ける刃は なまくらのため 切れないばかりか 打ちつけて鈍い痛みしか残らない それを盲滅法 八つ当たりで 場当たりに どこかしこと振り回すのだから 誰も近寄らず 戦いにもならず 勘違い…

焼け跡を求める者ども

世界は 理知によってではなく 蛮勇によって変わるのか その行動が 喝采を浴び 主体となった愚行者は 非難に耳をふさぎ 賛同者を 周りにはべらせ 悦に入って 正義を吠える たった100人の支持者によって 数万人が地獄に落とされる 言葉は 都合よく解釈できる …

詐欺師

いかがわしいトレーナーに トレーニングを指導され 身体が変わらないと嘆き 憎しみを抱き いかがわしさを糾弾する 一方 自分はクリーン やましいことなど何もない トレーナーがいて 彼の指導は 素人そのもの いかがわしく サービスの上手い詐欺師か 公明正大…

踏み絵

踏み絵を踏ませる自由はあるか ネットに溢れている いかがわしく 怪しげな行為をする者たち 犯罪でなくとも 詐欺一歩手前のダーティーな行い 彼らを断罪するため 世直しという言葉の下に 悪か否か 踏み絵を踏ませる 一人 また一人 踏み絵を踏まなければ 糾弾…

泥酔

記憶を失い 物を壊し 友人を失い 財産を失う 終わりなき堕落の坂を 転げ落ちながら 時に襲ってくる悔恨と 失望と諦念 それは自戒をもたらすことはなく さらなる自壊を導く 落下する過程 どうにでもなれ そんな自棄糞に酔い 美しい夢をみながら沈んでゆく そ…

魔女狩り

どれだけ正しく 道徳的であろうと 相手が いかがわしい詐欺師に見えようと 正義の名の下に 人を糾弾し 突撃して追い詰め 社会的な制裁を加える権能など ありはしない 明確な犯罪者なら ともかく この世の理の グレーゾーンに浮遊する人々 人の欲望や コンプ…