小さな世界のために12

 叔母。

 今思えば、わたしに最も似た人物と言える。

 結婚もせず、仕事をするでもなく、家にいて、何をするでもない。でっぷりと太って、その体と時間を持て余していた。妙なオカルトにはまり、家に大きな神棚を作り、さまざまな仏像を飾っていた。それも宗教的な統一性などなかった。

 よく癇癪を起こしていた。祖父や母に殴りかかっていた。わたしはその光景を怪獣映画の1シーンのように見ていた。恐怖があるわけでもなく、善悪の価値観もなかった頃の話である。しかし、祖母は震えていた。

 叔母は私と同じ部屋に二人きりになると、たまに近寄ってきて耳打ちした。

「あなたとわたしは金星から来たの。もうすぐ帰るから。」

「わたしはロックフェラー家の生まれ変わりだから、すぐに迎えが来る。その時は連れて行くから。」

 話の内容はとにかく、耳にかかる生暖かい吐息が気味悪く、話しかけられる度、わたしは恐怖で体が硬直した。子供でも分かった。これが本当の気違いなのだと。

 私が小学校に上がって間もなくのことだった。私が学校に行っている間に、叔母はいなくなっていた。たび重なる暴力に危険を感じた母が、叔母を精神病院へと強制入院させたのであった。

 5年ほど経ち、叔母は帰ってきた。通信制の大学の授業を受けるなどしていたが、結局はオカルト癖は治らなかった。そして、ある日、いびきをかいて昏睡状態となり、再び入院した。母も今度ばかりは叔母を家に戻すことはなかった。

 何もしない人間だから、オカルトにでもすがるしかなかったのだろう。大学の単位を取ったとて、それが慰めになったのかは疑わしい。ただ、叔母は叔母なりに生を模索し、己を崩壊させないため、必死に守っていたと思う。その苦しみは分からなかったが、似たような立場になった今のわたしは、叔母を責めることも出来ない。ただ、年をとるにつれ、人生が置かれた状況も、外見さえも似通ってきたと自覚する度、叔母を思い出して、私は自身の有り様と、これから終焉に恐怖しか抱けない。