小さな世界のために11

 祖母。

 私の記憶の中で唯一、あたたかく、美しい思い出として揺らぐことのない存在である。

 子供の頃から人との触れ合いが苦手であった。保育園など3歳で行かなくなった。高圧的な保母が嫌いで、何度も何度も泣いた。家にいて、幼いながらも引きこもりと同じになりかけた私は、祖母に育てられた。

 ある時は庭で草をむしり、ある時は家でご飯を食べさせてくれた。傲慢で我がままだった私に、祖母は限りなく優しく接してくれた。怒ることもなかった。私はいたるところで彼女を失望させていたのかもしれなかった。それでも、祖母は私に対する愛情を失うことはなかった。

 私が成人して間もなく、祖母は痴呆症になった。以前から聞かされていた、空襲で逃げた日の話を、何度も何度も、何度も何度も話した。私はそれを聞きながら、内心でうんざりしていた。そして祖母は入院し、ロクに話もできなくなってから、そんな自分を嫌悪することになった。

 最後まで祖母と険悪になることはなかった。無限にも近い寛容な祖母のことを思うと、私の生き様は申し訳ないとしか言いようがない。あまりにも優しすぎて、その姿が知性から育まれたと気づけないまま、別れてしまった。祖母を思い、自分を顧みた時、情けなさに今でも涙が止まらなくなる。