2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

失敗はするもの

知らない町の 知らない店に入れば 異邦人として 不審な視線に 晒されるときもあれば もの珍しい来訪者として 話の種の提供者として 歓迎されるときもあり 良い思い出も 思い出したくないことも 経験するのは当たり前 失敗だけ取り上げれば 二度と味わいたく…

あと一歩 そして あと一歩

人の体はもろく 30kmも歩くと たちまちズタボロになる 足裏 ふくらはぎ ヒザ アキレス腱 スネまでも 痛くて痛くて こんな愚行に つき合わせて 気の毒なほど もう歩けない あと一歩だけ 足を踏み出して 同じ苦痛を味わい また一歩踏み出す 一歩だけなら 踏み…

歩きたび

知らない街の 知らない道を 歩く 自分の体を動力に 一歩 また一歩 前に進めて 景色は ゆっくりと 後ろに回って 坂も 橋も 横断歩道も 歩道橋も 好きな道を 好きなように歩き 疲れては休み また歩きだす 自分の身体で 自身を運び 疲れも 怪我も 自分で引き受…

赤ちゃんの生き方

赤ん坊の無条件な母への信頼 なんて純粋無垢なのだろう 大人になるとは 汚れてしまうことなのか 赤ん坊は何も持っていない 失って困るのは命だけ 一人で生きられない だから目の前の 母を信頼し 母に依存し しがみつく 大人のように 右を立てたり 左に気を遣…

上る階段

目の前の長い階段 急峻で高い段差 果ては見えず 一時に上れる気はしない 一段 一段 疲れて 膝をついて 座り込んで 休む 再び上っては休み 休んでは上る 終わりは見えない 階段と空だけが 視界にあり 豆粒のごとき自分は 少しずつ 動いては止まる もう疲れた …

やさしくなれるとき

子供を見ていると 無防備さと 無条件の信頼を 自分はどこに忘れてしまったのか 考える おぼつかなく たよりない足取り この生き物は 保護してやらないと 絶対に生きてゆけない ミルクを飲ませて ゲップをさせて おむつを換えて 遊び相手になって 子供を見て…

好きなお店

シワひとつないクロス すかさず水を注ぐ給仕 ドレスコード 吟味した食材 ヴィンテージワイン 張り詰めた緊張 完璧さを目指すお店は 特別な記念日や 非日常の祝事に求める だけど 通いたくなる店 日常的に使う店なら 適度なゆるさがあるといい 気さくな店主 …

ただ待つ

手紙の返事を待つ 待ち合わせた相手を待つ 電車を待つ バスを待つ 注文した品物を テレビ番組が始まるのを待つ 待つというのは 何もせず 動かず ひたすら到来を期待することだ もしかしたら 来ないかもしれない 込み上げてくる 不安と寄り添いながら 未来が…

ほのめかす

満開の桜や 見渡す限りの菜の花 眼前の美しさに 感激する だが 満開でなくとも たった一輪の桜に 雪の隙間に 顔を出すふきのとうに 春を予感するとき まだ見えぬ世界への期待は ときに現実よりも美しい 人の想像力は 現在での満足より 未来への希望に向かう …

群れの中の異端

集団の中で 一人がゴネたり 他と違うために 余計な手間がかかったり 行動が遅くなったり 全体がもたつくことがある 何やってるんだ!? みんなに合わせろ! いいから。お前のことはいいから。早く! お前がおとなしくすれば みんなうまくいくんだ こんなシチ…

仕事をやり遂げたとき

学校を出て 仕事に就いた しばらく働いて このままだと 人生をすり減らすだけなんじゃないか と思った その思いは あながち間違ってもなかったけれど 数年働いていると 働くことの良さも分かり 息抜きのやり方も 分かってきた あれから長い年月が経って さま…

意志以生

火は危ないが 欠かせない 包丁は凶器にもなるが 料理に不可欠だ 危ないと思っても それ以上に便利なら マイナス以上に プラスがあると思えれば 注意しながらでも使う 新大陸を見つけようと 船出した者は 海の藻屑となる恐怖より 冒険への夢を見た 何人も帰ら…

照れ隠しの言葉

泣き言や恨み節ばかりだと 暗い気持ちになって 希望が持てなくなるけれど 明るくて前向きな言葉だけでは 心の本当の姿を隠しているのではないか ただ心地よい響きだけで 言葉に心が入っていないのではないか と思う時もある 悪口や嫌味は 目にしたくない よ…

いつかどこかでだれかと

どんなに科学が進んでも 電子レンジも パソコンも スマホも 電子機器に囲まれても 持って生まれた身体は 自然が造ったものだから 一万年前も今も 暑いのも寒いのも 眠いのも疲れるのも お腹が減るのも 変わりなく 人は群れて 街を作って 知ってる人も 知らな…

追憶の匂い

自分の過去 ある時期を振り返ると 匂いに似た 感覚が浮かび上がる 現実に香るものでなく 具体的なものに例えられないが 記憶の匂いは 確実に鼻腔をくすぐり 過去の何気ない一コマを 脳裏に蘇らせる 過去は遠くなればなるほど 美化され 夏の暑さも 木枯らしの…

アイスクリームとソフトクリーム

子供の頃 ソフトクリームを食べて感激したけれど 間違って 名前をアイスクリームと覚えてしまった 遊園地やデパートの屋上で アイスクリームが食べたいとねだると アイスクリームを買ってもらえた 違う これじゃない 不満げな顔で アイスクリームを見つめ 訴…

辞書の思い出

まだ辞書が紙だった時 学校で 英語を読むたびに引いて 頁を捲る お腹の真中が 徐々に黒ずんで 四隅が折れ 表紙は日に焼けて 辞書はだんだん汚れていく 汚れるほど 私は英語が読めるようになり くたびれるほど 単語を引くのが早くなり ボロボロになる分だけ …

ただ笑われる夢

何の件だか 覚えてなくて 妙な誤解をされている 違う 違うんだ 自分が言いたいのは そういうことじゃないんだ 相手はただ笑うだけ 誤解を解きたくて 必死になればなるほど 自分のことが滑稽に 見えるらしい 声が大きくなり ついに叫ぶ 爆笑される 叫んで叫ん…

旅と地図

旅に出たいと 頭に浮かび 何冊も本を読み ネットで調べ 地図とにらめっこ 旅の時間の何倍も 下調べに費やす 歩く道筋 バスや電車の時刻 夕食の店のメニューや値段 ことごとく暗記して 旅に出れば 頭にインプットした 旅のルートの 答え合わせに過ぎないと 思…

商い事

悪徳商人やら アコギな商売やら 商いをくさす言葉は数あれど 商人がいなければ 遠い国の名物も 新開発の品物も いや 普段食べる米だって 味噌だって 醤油だって 手に入りはしない 我々は 商人のお世話になり 商人もまた 買い手を当てにして お互いがなければ…

大部屋俳優

一山いくらで扱われ 何時間も出待ちして 登場するのは数十秒 斬られたり 水に落ちたり 顔も写らず 名前も知られず どこにでもいる 有象無象として 映画に出続ける なぜ続けるか ただ夢だけを抱きかかえているのか 夢に敗れてもう行く場所を失ったのか 個性は…

二つの旅

彼の地への憧れ 行ってみたい場所 食べてみたい料理 快楽への欲求 旅の先にあるのは 希望 それはそれは 楽しい もう一つの旅は 現実からの脱出 灰色で いつまでも続く日常 飽き飽きした労働 あまりの繰り返しに 手垢がついて 馴れて 熟れて 煮詰まって もう…

下町長屋の人

長屋を抜ける 狭い路地には 大小さまざまな植木鉢と 寝そべる野良猫 洗濯機の回る音 電話で喋る声 煮物の匂いが流れて 人の暮らしが目の前に 隔てられることなく 開けっぴろげにある 口は悪く 隠し事は出来ず 我慢を知らず 遠慮のない人々 人と人との距離が…

酉の市

熊手並ぶ参道 横に外れたテーブルで オヤジたちが 焼鳥片手に 缶チューハイを飲んでいる 空気は乾き 埃っぽい 冬と言うには暖かく 師走と言うには せわしなさを感じない それでも 酉の市が来るたび 一年がもうすぐ終わる 感慨にとらわれる 大きく 鮮やか 飾…

耳打つ雫

台所の蛇口から落ちる水滴が メトロノームのように聞こえる ポトリ ポトリと滴り 規則的に 耳に響き 夜の静寂を際立て 機械のような 正確なリズムは 不安と緊張を高める この世界に ただ水滴が 一粒一粒 生まれ落ちる そんな妄想に浸ると 夜はますます長く …

長年つかう器

気に入って買った ピカピカの器 使うたびに楽しく 何度も何度も 使い続け もはや使うことに 何の感慨も抱かず 日常に浸透して 何十年 使う器のなかでも 一番の古株になり 小さいキズが 目につく それでも 使うごと 馴染んで 愛着が湧き 大事にしようと考える…

新しく懐かしい味

ほうれん草のおひたし ひじきの煮物 里いもの煮っころがし 年寄りじみた しみったれた食べ物だと 思っていたのに いつの間にか 美味しく感じて 自分からせがむように なってしまった 大人になって 新しい味と邂逅し 中国 韓国 タイ ベトナム トルコ イタリア…

秋の空の高さ

空気が澄む 秋の空 高く遠い うろこ雲 どこまでも見渡せる透明感 隠れる場所のない不安 生命の 繁茂や雑多なエネルギーが 収束点に向かって まとまってゆく秋 充実への満足 後の終焉への予感 秋の実りは 有難く 佗しく 濁りのない空と 乾いた大気は 一抹の哀…

焦燥

電車に間に合わない 待ち合わせに遅れそう 掻き立てられる焦燥 イライラ 焦り 不安 負の感情を なぜ抱え込むか 友人からの手紙 新しく仕上げた仕事の報告 素晴らしい よくやった 同時に 自分もやらなければと 焦燥が湧く 本を読まなければ 仕事をしなければ …

虚無の快楽

踏み止まることが大切な時と 一歩踏み出す時が大切な時と 人生の転換点は己には分からない ただし 一つ分かるのは 投げ出してしまうことの 虚無の快楽 じっと 粘り強く こつこつと 積み上げてきたものを 一夜にして 色褪せたものにしてしまう 破壊的で 刹那…