下町長屋の人

長屋を抜ける
狭い路地には

大小さまざまな植木鉢と
寝そべる野良猫

洗濯機の回る音
電話で喋る声
煮物の匂いが流れて

人の暮らしが目の前に
隔てられることなく
開けっぴろげにある

口は悪く
隠し事は出来ず
我慢を知らず
遠慮のない人々

人と人との距離が近く
気を遣ってばかりだと
疲れてしまうから

ズケズケとものを言って
代わりに
ジメジメと根に持たない

人の世界に踏み込んでくるようで

意外に心こまやかで
弱味につけこんだり
嫌がることはしない

うるさくても
子供が騒いでも
文句を言わない

明るくて
元気で
少しの嫌なことはすぐに忘れ

風呂に入って
酒飲んで
寝てしまう

そんな根無し草みたいな
江戸っ子の残滓

たまに訪ねる
下町での付き合いは
振り回されてばかりで
へとへとになるけれど

さっぱりして
家に帰っても
嫌な気分になることがない