追憶の匂い

自分の過去
ある時期を振り返ると

匂いに似た
感覚が浮かび上がる

現実に香るものでなく
具体的なものに例えられないが

記憶の匂いは
確実に鼻腔をくすぐり

過去の何気ない一コマを
脳裏に蘇らせる

過去は遠くなればなるほど
美化され

夏の暑さも
木枯らしの冷たさも

思い出の中では
辛苦を感じさせない

夏の夜の草の匂いも
冬の夜の鼻腔をつく冷たさも

美しい世界の
一つの出来事に過ぎず

過去の匂いのイメージもまた
現実と離れているが

私ですら
気づかないやり方で

私の四肢が
世界を捉えようと
生きていることに気づけば

もう
けなげな
自身が
いとおしくなる