辞書の思い出

まだ辞書が紙だった時

学校で
英語を読むたびに引いて

頁を捲る
お腹の真中が
徐々に黒ずんで

四隅が折れ
表紙は日に焼けて

辞書はだんだん汚れていく

汚れるほど
私は英語が読めるようになり

くたびれるほど
単語を引くのが早くなり

ボロボロになる分だけ
辞書の中身は
私の手の内のものになった

頻繁に用い
汚れていくことは
誇らしいことでもあった

今やパソコンや電子辞書を使い
学生たちは英語を学ぶのだろう

何度も単語を調べるだろうし
調べる内に
キーボードの文字がかすれたり
液晶が薄れたり

使った分だけ
機械もくたびれて
愛着が持てるのだろう

ただ
辞書の紙の
古くなった匂いや
手触りは

たちまち過去を鮮明に蘇らせ
ノスタルジーを喚起し

青春とその時代のアナログな思い出に橋を架けて
いっそう記憶を美化させている