小さな世界のために13

 母。

 わたしにとって最も健全な関係を持つ相手であり、嫌悪の対象でもある。

 幼き日、母は優しく、時に厳しく私を叩いた。特段、おかしな親ではなかったと思う。気に食わないと、私に対して「他から養子をもらってくれば良いのだから、あんたなんか家から出てけばいい。」と言って、私を泣かせた。

 私が成人し、実家を離れ、再び戻っても、母は子離れ出来なかったように思う。子供への手紙を平気で盗み読んだり、私の捨てたものを漁って拾い出したりしていた。そんな母が嫌であったが、同時に家事に依存するのが楽であったため、苦々しく思いながら我慢していた。

 おそらく、わたしは母に対しては親離れ出来たのだと思う。母のおかしさ、思い込みの激しさ、自慢話の好きな性格、そういったものが成人するに連れて目についてきた。そして、わたしにも確実に似た要素が受け継がれていると自覚している。わたしはそんな母の短所を目にする度に自己嫌悪し、逆に自分が失敗したことを母の遺伝子のせいにして母を憎む。母の存在は、自らにかけられた呪いのごとく思える。もっとも、自分を嫌い、世間を憎む者にとっては、一人の親を呪うなど当たり前の話である。