小さな世界のために6

 吃音。

 気づけば、うまく喋れなかった。脳裏に浮かぶ単語を口に出そうとすると、咽頭が緊張し、「イ・イ・イイィー」と引きつった音を立てる。言葉を発しようとすればするほど、力みは増し、ますます歪な吃音が出るのだ。

 失笑をかったのは数知れず。あるいは卑下を、あるいは憐憫を受けたこともあった。言葉を話せない不自由さは、精神を萎縮させ、会話をおそれさせ、人に接する意欲を奪い、いつしか閉じこもることを日常とした。

 小学校では、ことばの教室などと言うところに通わされた。私の他には、自閉症統合失調症、授業に適応できない子どもたちが集まり、同学年の者たちよりも数年も遅れた、児戯にも劣る童謡や遊戯を強いられた。それは己が劣っていることを、今更ながら明らかにするという点で、屈辱であった。

 こんな場所から早く逃げ出したい。同じ学年のクラスへ戻りたいと願ったが、いつまでもその日は来なかった。週に2日、決まった時間に、私だけがことばの教室に行かねばならなかった。それなのに、5学年時の担任は、私がことばの教室に行くことを、「お前の精神が弱いせいだ。お前は逃げているのだ。」とクラスの皆の前で罵倒した。  

 私は行きたくないのに。

 あの愚鈍な大人は、私を負け犬の逃亡者だと決めつけていた。

 このことを思い出すだけで、あの教師に対して未だに殺意を覚える。