解禁日

疲れ果てた身体には 贅沢をする元気もない 節制の間 あれも食べたい これも食べたい あれもやりたい これもやりたい 願い続けたあれこれも 出来るとなってみれば 気持ちが奮い立つこともない ただ疲れ 少しの食事に満腹し 動かなかった身体を 動かそうにも …

塩出し

水を飲み また水を飲み 水を飲む 飲み続け 出た水分には 塩が出て 身体は ますます水を保持しきれない さらなる水分の流出 めまい だるさ 空腹 塩を出して 絞る身体 しなしなになって 塩を入れれば 次には さらに水を溜め込む

望遠鏡

遠くへ 遠くへ 眼を飛ばし 精神を運ぶ 遥か彼方 地の果て 星の向こうまで 見る意思 一切の曇りを許さず 透徹した視覚を追求する 一点に研ぎ澄まされた技芸 嘘もごまかしも 通用しない

戦い済んで

憎しみの連鎖の跡 砕けた心の残骸が 散らばっていた 埃にまみれ それはもう 土砂と区別がつかない 心ある者は 失われた心を思い 心無い者は さらに無慈悲になる 死とは なくなること 姿かたちも 思考の片鱗も 人々の記憶からも 消え去り 人は前を向く 忘れ …

炎上という消費

誰かが誰かを 叩いて 叩き返されて 周りは 燃え上がり さらなる燃料をくべ 引くに引けなく 本意とは 遠く離れても まだ叩き もうゆずれない 限界まで追い詰められ 一線を越えて 壊れる 焚き付けた皆々は 何事もなかったかのように 他の火事場見物に赴き 現場…

鳴く鳥の

ヒヨドリ鳴く 空は高く 倦んだ大気は流れ 哀しさが 風に乗ってくる 透き通る世界 存在は軽く 遠く運ばれ 感情の残滓が 鳴く鳥の 余韻にたなびく

躓き

忍び寄る不幸は 張り巡らされた蜘蛛の巣のように あちこちから まとわり付き そこで躓き あそこで躓き 小さな不運に見せて 身の回りを 覆ってゆく 気づけば 遠くの彼方 取り返しのつかない失敗 あの時 小さな小さな気づきがあれば 回避できたかもしれない

落ちた花

花は散らず ポトリと落ちた 姿を留めたまま 地に転がり 泥に塗れ 雨に降られ 汚れ しなびて 見る影もない やがて 土に還るとき 重なった 花びらの裏に見えた 白さ

狂える魂

風呂に入り くつろいだ時 前に立ち 顔に小便をかけてきた子供よ 恐ろしい 理由なき唐突な蛮行 驚きに思考は途絶える 喜ぶ子供の顔 狂気の現れなのか ここで 立ち上がり 子供に何をしよう そう難しくもなく この子に 一生忘れられない 衝撃を プレゼントしよ…

お前の猫

お前の中に 猫がいるだろう 闇夜で 一人孤独な心に か細い鳴き声が届く 目的のない 虚無にあり 猫はただ泣くだけ 姿のない 精神と知覚の境目 その隙間から 猫が鳴いている 見えず 届かず 力のない 不安に怯えた心に届く 猫の鳴き声が 聞こえるだろう

運動

この一時 この一年に 全精力を傾け 燃え尽きる運動もあろう コツコツと 長い年月をかけ 自分のペースで 時に休み オンとオフを切り替えて 人生の様々な出来事を経験しながら 移り変わる世界の中で 続けられる運動もあろう どちらも当然のあり方で 運動のイメ…

毒舌芸

気に食わないことがあれば 叩きたくもなろう 勝手に叩くのは 好きにすればいいが 叩き方が あまりにも稚拙では 見苦しいだけだ ある選手がホームランを打つ たくさん打つ ある記録を塗り替える それを称えるのが 気に食わないのは仕方がない だが 以前の記録…

短文レスバ

昨今のネットでは どうして こうも罵詈雑言が飛び交うのだろう 匿名の掲示板での悪態など 便所の落書きと変わらない ところが 実名で感情をあらわに やり合う人が珍しくなくなった 政治性 党派性 誰に賛成するか 反対するか はじめから決まっていて 何を言お…

閉ざされた空間に 一つだけ開く 光が差し込む午後 子供の遊ぶ声 隔絶した世界をつなぐ 小さくても 手が届かなくても ただ一つ 開いているだけで 窒息を免れる

老いていく

今まで出来たことが 出来なくなっていく 階段を駆け上がれず 足が上がらない いくら時間があっても 寝られず 疲れが取れない 好きなはずの酒が 飲めなくなった 老いていく身体に 失望し 時に 抗いながらも 衰えを受け入れてゆく それは諦念ではなく 押し付け…

怪我

怪我をして どう体を動かすと どの筋肉が使われるのか分かった こうすれば痛いのに ああすれば痛くない 身体への理解を深めた 同時に 身体を無理解で動かしていた自然に気づいた 己の体を知らずに生きる 意識しないでいられることも また良し

変化

変わらないでいるのは尊いか 変わらなければならないか 年を経るほど 変化は億劫で 変わらないまま いつまでも 過ごしたいと願うようになる それは 命までも 不変であったならという願いに仮託して 若ければ 変わらぬことは停滞で 後退と同義ですらあり 変化…

本当は違うのに

願い求めて 付き合ったはずなのに ほどほどの距離感を 模索し 要求には 無理せず 苦しまず 余裕を持ちながら応える それが長続きのためだと 思っていたのに 全力を出さねば いけなかったようだ こちらのペースと あちらのペース 噛み合わぬまま 離れてゆく …

犯罪の表現

テロリストが作った映画なんて いくらでもあったじゃないか 今よりも はるかに刺激に満ちて 政治に物申す 多くの映画を 我々は観てきたではないか 大したこともない 一つの主張を 押し潰しても 気に食わないからと 排除しているだけだ それ以上の理由も 必然…

国葬の日

大物が死んだ 現代の日本で 銃によって殺された 国葬は 政争の具となった 与党の政治利用 野党の政局化 与党内の権力争い これを機に 隙を伺う 国葬は適切だったのか 彼を国葬にしないならば どんな人物が国葬に値するのか 考える契機となるはずも 考えない…

行使する覚悟

力があれば 権力があれば 気に食わないあいつを 滅茶苦茶にできるのだろうか 小さな局面で 己の権能を振るい 優越感に浸ったり 得意気になることはあれど 相手の人生を左右するほどに 誰かを破滅させる 度胸などあるのだろうか 蹂躙し 駆逐し 絶命せしめる …

無聊を慰める

退屈は 平和であり 地獄である 誰もが求め 誰もが恐れる 小説を読み 無聊を慰める 懸命な作品に 心打たれるほどの出会いは 滅多になく 多くの駄作 模倣 機械的な量産作に 時を費やし もはや期待を失い それでも惰性で読む 読まなければ 恐ろしいから 読む 読…

愚考の秋

自分が作った世界に生きるなら 全て思いどおりになるだろうか なんの不自由もなく 誰もが敵愾心なく 自分を信じ 常に友愛の情をもち 困難はなく 暇つぶしを探しながら 食べたい物を食べ 飲みたい物を飲み 行きたい所へ行き 好きな娯楽に興じ 時には 権力を振…

体の声

つらいならつらいと 痛いなら痛いと発して 四肢に異常が宿り 治癒に至るまで 不安に苛まれる しかし 怖いのは 体の声が聞こえないこと 痛くもない 苦しくもない なのに 突然 体が動かなくなる 感知できない不安 感覚が信用できない 感覚が浮遊している 異常…

読むことの対価

何週間もかけて 読み終えた大作 語る言葉がなければ 一言二言で 感想は終わる 読む力 語る力 二つが合わさり 読んで語る 語ることで 読みは深まり 世界は広がり 再び読みたくなる 読むだけでは完結しない 読み込んだなら それに足る読みからの学びを 発信せ…

動く体動かぬ体

動かして 初めて 動かぬ我が身を知る 老いが迫り 怠惰が体を蝕む いづれ停止する予定の 体よ 動け 動け 動かぬまでも 動く意思よ 伝われ

神話

過ぎ去った世界が 今に至るまで 言葉を紡ぎ 意味を作る 世界の成り立ちと ここに我々のいる理由 神を語り その崇高さと愚かさが 我らの身に降りるように 今を創るための空想 壮大で 想像の果てに挑んだ創造 神を作り 神を知り 下僕が安堵する

真摯に怠惰

出鱈目に飲んで しこたま酔っ払って 記憶も 健康も 取り戻せなくなって 堕ちるところまで 堕ちたなら これ以上堕ちない安堵があり 安心し続けるために いつまでも酔って だらしなくしていなければならない 真摯に怠惰でなければならない

登る意味

階段を登れば 何が見える 徒労かもしれない 一段一段を なぜ登るのだ 理由なら いくらでも探せるだろう 人生に言い訳が必要なように 一つの行いにも 何か意味が欲しいと思うだろう しかし 意味は作り出しているだけ 因果は 結びつけているだけ 理由は必然で…

蠱毒の言葉

どこかの組織に入り 働き始めてみれば 人権など どこ吹く風 えげつない搾取と 大っぴらな差別 そんな現実を目の前にすると 薄汚く 汚泥に塗れた 何も考えない機械となる 世間の言葉など 薄っぺらい綺麗事に聞こえ 正しい理屈も 権利も思想も 意味を持たない …