南国の影 人の闇

コザの坂を下り
十字路を徘徊する影

日に焼けた肌と髪が
とぼとぼと
国道を横断する

兄ちゃん百円持ってないか

ベトナム戦争の活気と暴動は
はるか昔に過ぎ去った

取り残された建物は廃墟と化し
取り残された人は徘徊者となった

兄ちゃん百円持ってないか

この人たち
ペットボトルの飲み残しのお茶と
ビニール袋にカップ麺を入れて
影と日なたをうろつく女性たち

コザを歩けば必ず目にする
街角で公園のベンチで

それなのに
ここに確実にいるはずなのに
彼女たちは
実態のない影とされてしまっている

数年に一回
彼女たちが新聞に載る
沖縄市で国道を横断していた女性が車にひかれて死亡」

死んだ時にしか
存在していたことが認められない

なぜなら世間にとって
彼女たちの生は影で
死こそが現実だから

死んでこの世からいなくなることが
唯一
世間が肯定できる機会だから

不都合や不条理を
無いものにしたいと
願う気持ちは分かるが

不都合なものとされたほうは堪らない
不毛・不能・不手際・不必要
かつて必要だったものが
要らないものにされていく

捨てたら身軽になるのだろう
捨てられるのが嫌で
みんな捨てる側になりたいと願うのだろう

世を拗ねて怨むとしても
私は捨てるより捨てられる
騙すより騙される人間として死んでいきたい