小説を書いていた父
小説教室に通ったり
同人誌に入ったり
仕事する傍らで
五十年以上
百作以上は書いただろう
だが
ものにならず
ついに
小説家として
収入は得られなかった
父は敗者だったのか
父の人生は失敗だったのか
どうだろう
本人はどう思っていたか
今となっては
知る由もない
60歳を過ぎ
70歳を越えてからは
このまま
小説家になれず
人生を終えるのではないかと
薄々気づいていただろう
それでも
小説が好きで
小説を書くのが好きで
同人誌の仲間と
酒を飲んでは
喧々諤々
いつも
文学論を戦わせ
好きな作家に陶酔しては
自分のことのように
うっとりと作品を論じた
ずっと
小説に寄り添っていた
結果は出なかった
小説を愛したけれど
小説に愛されたのか
分からない
だが
他人事ながら
良い人生だったじゃないか
そう思える
生きている間
好きになって
夢中になって
愛せるものを
懐に抱けた
好きなものを見つけて
熱中し
寄り添っていられた
わたしは
少し
父がうらやましい