京マチ子が死んだ

京マチ子が死んだ
昨日はドリス・デイが死んだ

大相撲三日目
テレビ中継が終わり
続いてのNHKニュース

訃報は
二番目のニュースだった

原節子のような
伝説めいたエピソードもないし

高峰秀子のように
多才でもなかった

大正生まれ
OSK出身

青春の輝いた演技を
戦争のため
満足にフィルムに残せなかった

グランプリ女優
羅生門
『地獄門』

戦後の映画の黄金期
最も世界に知られた女優

強い個性
上手い芝居

黒澤も小津も
彼女を使いこなせなかった

かろうじて
溝口と吉村が
彼女の魅力に迫り得た

ベストは
『偽れる盛装』

体を張った演技と
色気の滲む情念
肉体の迫力

京マチ子に代わる女優などいなかった

彼女だけが
彼女の芝居をして
彼女の世界を作り
認められた

年配者で
京マチ子を知らぬ者などいない

それなのに
晩年は
まったく光が当たらなかった

訃報ですら
二番目のニュース

悔しかった

数年前
FIAF賞をもらった

国立フィルムアーカイブ
以前はフィルムセンターと言った機関

一押しで香川京子
なぜなのか
格が違うじゃないか

生きてる間に
なぜ再評価しなかった


世界に最も知られた
日本人女優を
なぜ軽んじたのだ

訃報を知った
酒場のカウンター

一人
涙を流した

悔しくて
扱いが小さすぎるのが
悔しくて

泣けて
仕方がなかった

京マチ子が死んでしまった