座席も決まっていて
一回の上映しか観られない
昔はよく映画を観た
その頃の映画館は汚くて
一日中時間をつぶす
得体の知れない人たちがいた
ポップコーンの匂いの代わりに
煙草のケムリが立ち込めた
よごれたフィルムで
スクリーンには雨が降っていた
でも通っていた
楽だったのだ
きちんとしていなかった
お高く止まっていなかった
ガラガラの劇場で
四肢を投げ出しても
誰も見ていない
映画館の闇に逃げ込めたのだ
今の劇場は
映画を見に行くところで
現実から避難する場所じゃない
闇に隠れて見上げるスクリーンは
まぶしかった