向かいに座る男
十冊以上の辞書を
壁のように積み上げ
何やらメモを取っている
それだけなら良いのだが
ア~とかウ~と
ぶつぶつ言いながら
時に低く唸り声を上げる
読書に集中できない
厄介な席についてしまったものだ
迷惑なのには違いない
周りの席は空き
人も避けている様子
だが
しばらく近くにいるうちに
席を移る気が変わった
その男
とにかく一生懸命で
唸りはするが
メモを書きなぐっている
えんぴつを走らせる音
独り言
紙をめくる音
一心不乱の姿
周囲を気にしない態度
迷惑な思いと同時に
奇妙な好意も抱いた
その男が何者か分からないが
学者や作家の一部が
世間ずれして
不器用にしか生きられない
そんな子供っぽい
幼稚さと正直さを見た気がした