我家に残る戦後

戦中戦後
貧しかった母

ひもじさが生んだ信念
食べ物を捨てない
着る物を捨てない

その他
捨てる理由がなければ
けっして捨てない

戦争が終わり
爾来七十余年

我家の冷蔵庫には
賞味期限切れ食品が溢れる

スーパーのビニール袋は堆積し
三十年は履いていない靴
着る気も失せた服
誰も使わない布団
埃をかぶった鯉のぼり
何に使うのか分からない木板

家は
いよいよ
ゴミ屋敷と化す

もう捨てよう
物を持たなくたっていい
物がなくなれば
空いたスペースを使えるでしょ

頑として
首を縦に振らない母

年老い
身体も弱りつつある

今わたしが
モノを捨てるのは簡単だ
2~3日で
六畳一間が空くだろう

だがしかし
母を納得させるのが難しい
生き様を
露骨に否定してしまう

そして躊躇
停滞から鬱屈への
悪循環

家族の心に潜む
戦争の痕