人の見る力

マスクをしている方が
美人に見える

メガネを外して見る方が
美人に見える

鮮明で完全な姿より
ぼやけ
一部が隠されて

想像力が働くほうが
美しいイメージが湧く

ならば
人は
善意でものを見るのか

あるいは
願望を対象に持ち込み
その内に欲望を秘めるか

人は人に対してのみ
想像力を用いるのではない

動物の前足が
壁に隠れて見えない

だが人は
動物の前足をあるものだと
思い込む

壁から出てきて
実は足がなかったとき
初めて驚く

人には
もののイデア
有り得べき姿が
刷り込まれている

それが
我々の認識を助け
さらなる認識を生み

時に固定観念として
枷となり
思い込みをもたらす

だが何の先入観もなく
まっさらな気持ちで
一つ一つのものを見るのは

生まれたての子供でもなければ
出来るものではない

じっくりと
細かく観察するのは

それに価する
大切なものだけだ

本当の本当を見極めるのは
あまりにも大変なことだし
出来るとは限らない

八百屋のピーマンに
一つだけ偽物が紛れ込んでいたって

言われなければ
気づかない

だが一つ一つ
ピーマンを吟味するのは
骨が折れる

八百屋に並んでいるのは
本物のピーマン

その程度の認識のほうが楽

ゆえに
人を美人に見せるのも

美人でいたほうが
いいと思っているからだ

マスクをしている顔しか知らず
相手と交際することがないように

付き合いが深まれば
認識も深化してゆく

その時が
勝負だ