旅立ちの前夜

今日
わたしはこの街を捨てる

慣れ親しんだ
故郷を出て

知らない街へ

馴染みの店
旧友とも
永久の別れ

私を柔らかく包んでくれた繭は
いつしか
体にまとわりつき
ドロドロに溶解して
耐え難い腐臭を放っている

私が生きて
出会ってきた
全ての素晴らしいものに

私は慣れ
何も感じない

倦んだ心に
風を通し
淀みを吹き飛ばして

世界が
もう一度
輪郭を鮮やかにみえるよう

今日
わたしはこの街を捨てる

不安と葛藤はあれど
まだ見ぬ世界への憧憬は募り

新しい匂いと光への期待が
心臓の鼓動を速める

まだ何も得ていない
何も得ないかもしれない

ただ可能性を手にした今

その夢に酔う今こそが
現実よりも美しい