足を漬ける男

その男は

湯船の縁に座り

足を漬けていた

 

1時間も

2時間も

座っているのだった

 

邪魔であった

我儘に思えた

鬱陶しかった

 

男は

毎日来て

毎日足を漬けている

 

たまに

座禅の真似事や

印を結んだり

ブツブツと

何やら唱えたりしている

 

2時間も浸かってから

桶に湯を汲み

二杯、三杯かぶって

 

水風呂に入る

 

水風呂の中で

口をゆすぎ

 

潜って

頭を掻きむしり

 

蛇口の水を含んでは

ブクブクうがいして

床に流した

 

汚かった

嫌だった

鬱陶しかった

 

ある日

脱衣所に佇む男を見ると

 

足の指先が

真っ白

 

壊死しかかっているのだった

 

歯茎から

白い歯が覗くように

 

風呂上がりの

真っ赤な足に

白い指先が一列

並んでいた

 

左足の小指は無かった

 

糖尿病か

他の理由での壊死か

 

だから彼は

湯船に足を漬けていたのか

 

毎日足を漬けて

血行を良くして

壊死を防ぎたかったのか

 

すべて

腑に落ちた

気がした

 

彼の我儘で汚い振舞いも

熱湯に浸かり続ける根気も

 

足が

彼をそうさせた

 

彼が

足をダメにしかけているように

 

足もまた

彼を支配していた

 

そして

今日も

足を漬けているのだろう