入浴そして危機

42度の湯に5分10分浸かるだけで
激しい動悸に見舞われる

頭の中は真白で
湯気の中に溶けそうで
何も考えられない

入浴という日常が
たちどころに
生命の危機へ直結する

風呂に入らなくたって
ただ息を一分ほど止めるだけで

苦しくて
今生きることに
必死になる

そんな簡単な
必然を知りながら

日頃は悩み
風呂に入って悩みを忘れ
ゼイゼイ
ハアハアと
息をついて

精神と身体の辛苦を
行き来し

そのどちらの苦しみも
インスタントな
茶番の域を出ず

どこかで切実な危機に憧れ
現実では怖がり
安心と安全を担保しながら
遊戯のような日常を描いて

自分の人生を箱庭のようだと嘲笑し
自棄になって
世界を肯定できない

それでも
42度の湯に浸かった肉体は
真剣に自己を気遣って
血液を送り出し
空気を吸い込もうとしている

それだけは忘れないようにしよう