激しい動悸に見舞われる
頭の中は真白で
湯気の中に溶けそうで
何も考えられない
入浴という日常が
たちどころに
生命の危機へ直結する
風呂に入らなくたって
ただ息を一分ほど止めるだけで
苦しくて
今生きることに
必死になる
そんな簡単な
必然を知りながら
日頃は悩み
風呂に入って悩みを忘れ
ゼイゼイ
ハアハアと
息をついて
精神と身体の辛苦を
行き来し
そのどちらの苦しみも
インスタントな
茶番の域を出ず
どこかで切実な危機に憧れ
現実では怖がり
安心と安全を担保しながら
遊戯のような日常を描いて
自分の人生を箱庭のようだと嘲笑し
自棄になって
世界を肯定できない
それでも
42度の湯に浸かった肉体は
真剣に自己を気遣って
血液を送り出し
空気を吸い込もうとしている
それだけは忘れないようにしよう