装飾のない天井
コンクリート打ちっぱなしの床
吊り下がる白熱灯
行き交うダンボール箱
声を張り上げる人
どこの市場にもある
言語も文化も国境も越えた
活気と喧騒
市場がどこか画一的なのは
食欲という普遍的な欲望を扱っているからだろうか
活気の裏にまわれば
打ち捨てた野菜くずと魚の腹わた
この腐臭はどこかで嗅いだ気がする
たまらなく郷愁を掻き立てる臭い
その記憶を遡って歩けば
身体は徐々に溶解し
食欲を満たす眼だけになって
陳列する肉と魚と野菜のあいだを
ただ幽霊のように彷徨い
埋もれていく
市場の大きな胃袋の中で
姿も形も名前もない快楽に浸り続ける