もう一つの世界としての文学

政治も
法律も
警察も

社会を統治し
犯罪を減らし
世界を丸く治めているだろう

だが
生きている人々の
不幸を無くすことなど出来はしない

苦悩も忍耐も抑圧も
人間である前に
生き物である限り
ついて回る

辛さに耐えかね
生きていられぬ

そんな時
たった一冊の本で
一片の文章で

人は救われる時がある

文学の世界で
人は自由で

普段
世界で生きるように
仲良くやる必要もない

体裁を整える必要もない
良い子でいる必要もない

抑圧を開放し
欲望を発散し

人を呪い
人を殺し
人を切り刻んでも

文学の中において
許されなければならない

耐え難い情念を
吐き出し

人の心を打つ
激しさを持って

言葉は世に現れ
人を震わせ

怒らせ
共感させ
涙を流させ

再び自由を想う

生きている世界が
不自由である限り

文学の世界は自由に広がり
憧憬を持って迎えられ

より過激に
より切実に

存在を知らしめるだろう

豊かで幸せな者には
文学は必要ない

文学の効能は
世界を生きられぬ
病を抱える者にこそ
求められ

世界が世界である限り
文学が無くなることなど
決してありはしない