安寧の中の表現つまり怠惰

成功と栄光を手に入れ
いくつもの連載を
同時に抱えて

週刊誌や月刊誌に
書かれたエッセイは

もう不思議なほど
いくら謙虚に慎重に読んでも
心打たれない

面白い言い回しや
良い目の付け所
けっしてつまらないものばかりではないけれど

結局は
暇つぶしの対象でしかない

穏やかで安寧で
それなりの暮らしの中から生まれた文章は
それなりの文章でしかなくて

切迫した緊張も
心の底から湧き上がる叫びも
内包していない

文章を書く時は
どうしても伝えたいことがなければ
気持ちが乗ってこないから

惰性で書けば
文章は輝かない

とは言え
人が切実に伝えたいものなど
一生にいくつもあるわけじゃない

伝えたいものが無かったり
自分でも分からないままに
死んでしまったり

そんなこともよくあるし
絶対に人に何かを伝えなければならない
というわけでもない

ただ書きたいという
衝動だけがあって

何を書きたいかも分からなくて
もがいている

そんな目的を失った努力や
無意味にのたうち回る姿は

日々無為にひたすら射精するのに似て
ときに微笑ましくもあるけれど

書きたいものを見つけるために
世界の果てまで旅したり

放浪を重ねて浮浪者になってしまったり
汚泥の底で色恋沙汰にまみれたり

己を破滅に導くような
愚行を繰り返し

愚考を重ねて
表現にたどり着きたいという足掻きは

泥中の蓮のごとく
汚さと清らかさを帯びる時があり

そんな種を手にしたなら
自分に明確な表現の欲求と対象が見えたなら

大事なことを
大切にして

慎重に大胆に
繊細にエネルギッシュに

シンプルに伝えるために
あらゆる技巧を考慮して

伝えるための努力をしないと
人に届けたいものは届かない

苦労に苦労を重ねて
どうしたってうまくいかない

読みにくい
重苦しい
たどたどしい

でも一生懸命なら
そんな文章が
私は大好きだ