風が吹いて

風が吹いて
吹いて

熱と
乾きを運び

誰もいない
昼下がりの街路樹の並木の

葉を揺らし
音を立てて

過ぎゆく
夏の盛りを
知らせた

暑さに弱り
弱るのに慣れた体に

当たる風は
少し草の匂い
日に灼けた
アスファルトの匂いがする

風に打たれて
匂いをただ嗅いでいると
子供に戻った気がして

流れる汗と
濡れたシャツと
長くなった影と

五感を動かして
感じ取っている今に
頭だけが働いていない

そう
意味なんてない

だけど
全部憶えている

風が吹いた
あの日の感覚を