暴風前夜

幾つになっても

台風が来る前は

血が騒ぐ

 

こっぴどくやられて

家の屋根がめくれようと

 

電気が止まろうと

水道が止まろうと

 

ルーティンが壊れる愉快は

心の奥に燃えていて

 

ボロボロになって

涙を流しながら

 

その不幸が

同時に快感でもあり

 

信じがたい悲劇の中に

身を置く特権を想像しては

 

突風が日常を吹き飛ばしてくれることを

願っている

 

積み重ねる労苦や

まめまめしい努力は美しいが

 

耐え忍ぶのは

いつだって退屈なのだ

 

退屈とともに

地に根を張って

生きるのが現実ならば

 

空想には

全てを打ち壊す快楽があって

 

台風前夜

現実と空想が

入り交じる

 

危険を孕んだ

風を吹かせてくれるのだ