婆の店

黒光りする板

煮染めたような

年輪の蓄積

 

一人で始めて

六十年

 

くたびれ果てた

人と店

 

おでんの

湯気だけが

立ちのぼる

 

時が止まっていた

 

女将は

九十と言った

 

しみじみと

ゆっくり飲んだ

 

常連は

皆死んだ

 

ただ店だけが

残っているのだった

 

女将の

昔話に付き合い

 

杯を傾け

白菜を頬張って

 

また酒を飲んだ

 

人が無くしてきたものが

残っていた