ラーメンの善意

一杯のラーメンを

50年作り続ける

 

大手チェーンや行列店

旨い店は幾らでもあるだろう

 

だが彼らには

 

商店街の片隅で

淡々と

ただ続ける

 

偉大さも恐ろしさも

持てはしない

 

半世紀続くというのは

恐ろしいことなのだ

 

大波も小波

次々登場してくる商売敵も

不況も病も

 

己の迷いも

一切を乗り越え

 

なお悩みながら

続けている

 

ラーメンに浮かぶ

うっすらとした油膜は

 

親父の汗も垢も

混ざり込んで

 

酸っぱくしみったれた

香気を発している

 

美味しいのではなく懐かしい

感激ではなく安堵する

だが間違いなく心に響く

 

その理由が

くたびれた厨房と

火傷の跡だらけの腕

 

皺だらけの親父の顔でなければ

なんだろう