彼の夢

夢ばかり見ていた

 

夢を見て

夢に溺れ

 

現実を見ず

現実を放り投げた

 

いくつになっても

夢ばかり見て

 

地道な努力も

現実との折り合いも

 

何もなく

而して

何も手に入れていない

 

年老いて

遅いと嘆くのも

 

あまりにも

哀れで

 

しかたなく

未だに

夢ばかり見ている

 

現実を見ないために

夢ばかり

見ている

 

一度も叶ったことのない夢

 

いつかは叶えたいと

思う願いすらなくなり

 

今は叶わないと分かって

夢を見る

 

ボロボロで

貧困に喘ぐ孤独者

 

夢の中では

宮殿住まいで

栄光に包まれ

困ることなどない

 

悲しいかな

 

現実になるはずもない

いや

現実にならなかったからこそ

 

彼は夢を見る

 

もはや

夢を見るしか

彼にはない

 

あとになって

今際の際

 

こんなはずじゃなかったと

悔い

涙を流しても

 

彼には

夢を見るしかないのだ