料理人の手

手のひらの
分厚い皮
包丁ダコ

油の飛び散った
火傷の跡

修行時代の
包丁の傷

トラック何台分も
玉ねぎを刻み

魚を卸し
生地をこね

レシピを
身体に染みつけてきた

その象徴たる
手の痕跡は

仕事と歩んだ生涯の
良さも悪さも
辛さも苦しさも
楽しさも
一途さも
雄弁に語る

抵抗なく入ってゆく刃先
角の立つトマトの断面
刻んだキャベツの張り

毎日毎日続けて
当たり前になった手さばきが

素人には
魔法に映る

ゴツゴツとした手のもたらす
滑らかさと美しさ

積み重ねた時間と苦労が
磨いた技に
対面した時

素直に頭垂れる思いが湧き
心の中に
爽快な風が吹いた