忘れていくあいだ

あの時の
潮風の匂い
きらめく水面

駅から
とぼとぼ歩いた街

自転車の中学生
釣り糸を垂れる好々爺

自分で感じたことなのに
するすると
指の間から落ちる砂のように

記憶が瓦解していく

嫌なことも
嬉しいことも

感覚が朧気になり
自然に朽ちる屍のごとく

少しづつ
溶解し
ほどけて

脳裏の暗い海に
埋もれていく

わたしは
体験が薄れ
遠のいていくのを

安堵と
さびしさを抱いて

じっと傍観する