夏の花献辞

天災

人災

悪意

劣情

 

光と闇を見た人よ

 

出来事は

ネガのように

 

無意識に

脳裏にこびり付き

 

何かの度に

反転現像して浮かんでくる

 

冷静を奪われ

怒りと興奮にうなされ

 

歯を食いしばって

記憶を制御しているのに

 

周りからは

落ち着いて

紅茶一杯を啜っている

ようにしか見えない

 

浮かび来る幻影

出来事につぐ出来事

 

世の中のサイクルは目まぐるしく

大抵のことは

忘れてしまうはずなのに

 

忘れてはいけない

忘れられないものが

頭に棲み着いていしまう

 

個人で

社会で

国で

世界で

 

記憶は留められ

時に捏造されながら

 

不幸を前に

立ち止まる

 

わたしは

忘れたいのか

忘れて欲しくないのか

 

ここに留まるか

前に進むか

 

進みたいのか

進めないのか

 

逡巡の中

光明は見出だせず

 

息苦しく

ふわふわとした

葛藤の中を

滑ってゆく

 

持ち前の

美しい文章も

切実さの前に潰え

 

迫力と恐怖

正鵠な描写が

 

物書くことの

責務を思い起こさせ

 

作品も

文脈も壊れても

 

ただ存在するものとして

それは光っている

 

彼は自殺した

 

壊れ

疲れ

失い

奪われて

 

死んでしまった

 

その死が

最大の損失で

 

彼の受けた衝撃の

捉え難い悲劇を

 

冷酷に伝える