眼鏡の世界

初めて眼鏡をかけたとき
自分の眼がボヤケていたことに驚いた
世界の輪郭が明確なことに驚いた
世界がざらついていることに驚いた

顔の毛穴や痘痕や黒子
脂ぎった光沢
目尻の皺

こんなにもはっきり見えてしまうのか

見たいものがよく見えるようになった
だが世界は見たいものばかりではなかった

それでも眼鏡をかけなければ生きていけない
視覚だけの話ではない

生きていれば多くのことが分かるようになる
知らなくて良いこともある
知りたくないこともある
だが知ることが生きることでもある

眼鏡を通した世界に
私はすっかり慣れてしまった
慣れて
沈んで
そこで眠れるようになった

今一度
世界のザラつきを取り戻すには
新しい眼鏡を手にするか
初めて眼鏡をかけた時を思い出すか

違和感をもって世界を眺めるほうが
たくさん生きられる気がするのだ