小さくて無意味な傷の記憶

貶められたり

騙されたり

 

嫌な心に触れて

悩ましい夜を何度も過ごした

 

やがて忘れて

笑えるようになったのに

 

いつかの

舌打ち一つ

言い回し一つ

 

些細なことであるはずなのに

ずっと残るものもある

 

大怪我から立ち直って

歩きまわっているのに

 

なぜか

指に刺さった

野バラの棘を思い出す

 

大事かどうか

重大かどうか

 

そんなものは関係ない

 

自分にも分からないけれど

 

ただ

憶えている

 

余計な文脈も

当時の風景もなく

 

それだけを

憶えている

 

小さな小さな

傷のこと

 

決してセンチメンタルなわけでも

メランコリックになっているわけでもない

 

何も訴えてこない傷が

あるということ

 

確かに傷があって

刻みつけられたということ

 

忘れていいはずなのに

忘れられないということ