言葉の断層

当たり前に言われること

 

やりたいことをやれ

好きに生きればいい

 

年配の

優しさに満ちた

配慮の届いた言葉

 

どれほど冷酷だろうか

 

やりたいことなんか出来ない

好きになんか生きられない

 

観たい映画も観られない

読みたい本も買えない

 

そうやって

生きているんじゃないか

 

やりたいことはあっても

やれることは少しだけ

 

そのために

膨大な労働や苦役に甘んじて

なんとか生きているんじゃないか

 

好きなように

生きろって言われても

 

ああ生きてるよ

出来る範囲で

 

ああ生きたいよ

やれる範囲で

 

いい加減なこと言いやがって

 

ある時は

不幸な苦労人を演じ

 

ある時は

有産階級のエリートを気取って

 

その場その場で

付ける仮面は

自分に都合の良いものばかり

 

当たり前だ

誰だってそうだ

 

だけど

あんたにとって当たり前の

満ち足りた生活は

 

どう足掻いたって

オレには無理なんだよ

 

お前の当たり前を

押し付けるなよ

 

それが優しい言葉であればあるほど

隔たりの溝は

深く

深く

 

届かない断絶を

あらわにしてしまうから