2017-01-01から1年間の記事一覧

仕事をやり遂げたとき

学校を出て 仕事に就いた しばらく働いて このままだと 人生をすり減らすだけなんじゃないか と思った その思いは あながち間違ってもなかったけれど 数年働いていると 働くことの良さも分かり 息抜きのやり方も 分かってきた あれから長い年月が経って さま…

意志以生

火は危ないが 欠かせない 包丁は凶器にもなるが 料理に不可欠だ 危ないと思っても それ以上に便利なら マイナス以上に プラスがあると思えれば 注意しながらでも使う 新大陸を見つけようと 船出した者は 海の藻屑となる恐怖より 冒険への夢を見た 何人も帰ら…

照れ隠しの言葉

泣き言や恨み節ばかりだと 暗い気持ちになって 希望が持てなくなるけれど 明るくて前向きな言葉だけでは 心の本当の姿を隠しているのではないか ただ心地よい響きだけで 言葉に心が入っていないのではないか と思う時もある 悪口や嫌味は 目にしたくない よ…

いつかどこかでだれかと

どんなに科学が進んでも 電子レンジも パソコンも スマホも 電子機器に囲まれても 持って生まれた身体は 自然が造ったものだから 一万年前も今も 暑いのも寒いのも 眠いのも疲れるのも お腹が減るのも 変わりなく 人は群れて 街を作って 知ってる人も 知らな…

追憶の匂い

自分の過去 ある時期を振り返ると 匂いに似た 感覚が浮かび上がる 現実に香るものでなく 具体的なものに例えられないが 記憶の匂いは 確実に鼻腔をくすぐり 過去の何気ない一コマを 脳裏に蘇らせる 過去は遠くなればなるほど 美化され 夏の暑さも 木枯らしの…

アイスクリームとソフトクリーム

子供の頃 ソフトクリームを食べて感激したけれど 間違って 名前をアイスクリームと覚えてしまった 遊園地やデパートの屋上で アイスクリームが食べたいとねだると アイスクリームを買ってもらえた 違う これじゃない 不満げな顔で アイスクリームを見つめ 訴…

辞書の思い出

まだ辞書が紙だった時 学校で 英語を読むたびに引いて 頁を捲る お腹の真中が 徐々に黒ずんで 四隅が折れ 表紙は日に焼けて 辞書はだんだん汚れていく 汚れるほど 私は英語が読めるようになり くたびれるほど 単語を引くのが早くなり ボロボロになる分だけ …

ただ笑われる夢

何の件だか 覚えてなくて 妙な誤解をされている 違う 違うんだ 自分が言いたいのは そういうことじゃないんだ 相手はただ笑うだけ 誤解を解きたくて 必死になればなるほど 自分のことが滑稽に 見えるらしい 声が大きくなり ついに叫ぶ 爆笑される 叫んで叫ん…

旅と地図

旅に出たいと 頭に浮かび 何冊も本を読み ネットで調べ 地図とにらめっこ 旅の時間の何倍も 下調べに費やす 歩く道筋 バスや電車の時刻 夕食の店のメニューや値段 ことごとく暗記して 旅に出れば 頭にインプットした 旅のルートの 答え合わせに過ぎないと 思…

商い事

悪徳商人やら アコギな商売やら 商いをくさす言葉は数あれど 商人がいなければ 遠い国の名物も 新開発の品物も いや 普段食べる米だって 味噌だって 醤油だって 手に入りはしない 我々は 商人のお世話になり 商人もまた 買い手を当てにして お互いがなければ…

大部屋俳優

一山いくらで扱われ 何時間も出待ちして 登場するのは数十秒 斬られたり 水に落ちたり 顔も写らず 名前も知られず どこにでもいる 有象無象として 映画に出続ける なぜ続けるか ただ夢だけを抱きかかえているのか 夢に敗れてもう行く場所を失ったのか 個性は…

二つの旅

彼の地への憧れ 行ってみたい場所 食べてみたい料理 快楽への欲求 旅の先にあるのは 希望 それはそれは 楽しい もう一つの旅は 現実からの脱出 灰色で いつまでも続く日常 飽き飽きした労働 あまりの繰り返しに 手垢がついて 馴れて 熟れて 煮詰まって もう…

下町長屋の人

長屋を抜ける 狭い路地には 大小さまざまな植木鉢と 寝そべる野良猫 洗濯機の回る音 電話で喋る声 煮物の匂いが流れて 人の暮らしが目の前に 隔てられることなく 開けっぴろげにある 口は悪く 隠し事は出来ず 我慢を知らず 遠慮のない人々 人と人との距離が…

酉の市

熊手並ぶ参道 横に外れたテーブルで オヤジたちが 焼鳥片手に 缶チューハイを飲んでいる 空気は乾き 埃っぽい 冬と言うには暖かく 師走と言うには せわしなさを感じない それでも 酉の市が来るたび 一年がもうすぐ終わる 感慨にとらわれる 大きく 鮮やか 飾…

耳打つ雫

台所の蛇口から落ちる水滴が メトロノームのように聞こえる ポトリ ポトリと滴り 規則的に 耳に響き 夜の静寂を際立て 機械のような 正確なリズムは 不安と緊張を高める この世界に ただ水滴が 一粒一粒 生まれ落ちる そんな妄想に浸ると 夜はますます長く …

長年つかう器

気に入って買った ピカピカの器 使うたびに楽しく 何度も何度も 使い続け もはや使うことに 何の感慨も抱かず 日常に浸透して 何十年 使う器のなかでも 一番の古株になり 小さいキズが 目につく それでも 使うごと 馴染んで 愛着が湧き 大事にしようと考える…

新しく懐かしい味

ほうれん草のおひたし ひじきの煮物 里いもの煮っころがし 年寄りじみた しみったれた食べ物だと 思っていたのに いつの間にか 美味しく感じて 自分からせがむように なってしまった 大人になって 新しい味と邂逅し 中国 韓国 タイ ベトナム トルコ イタリア…

秋の空の高さ

空気が澄む 秋の空 高く遠い うろこ雲 どこまでも見渡せる透明感 隠れる場所のない不安 生命の 繁茂や雑多なエネルギーが 収束点に向かって まとまってゆく秋 充実への満足 後の終焉への予感 秋の実りは 有難く 佗しく 濁りのない空と 乾いた大気は 一抹の哀…

焦燥

電車に間に合わない 待ち合わせに遅れそう 掻き立てられる焦燥 イライラ 焦り 不安 負の感情を なぜ抱え込むか 友人からの手紙 新しく仕上げた仕事の報告 素晴らしい よくやった 同時に 自分もやらなければと 焦燥が湧く 本を読まなければ 仕事をしなければ …

虚無の快楽

踏み止まることが大切な時と 一歩踏み出す時が大切な時と 人生の転換点は己には分からない ただし 一つ分かるのは 投げ出してしまうことの 虚無の快楽 じっと 粘り強く こつこつと 積み上げてきたものを 一夜にして 色褪せたものにしてしまう 破壊的で 刹那…

不全 変態 予感

コーヒーは黒いけど真黒じゃない 海は青いけど真青じゃない 血は赤いけど真赤じゃない 僕は人間だけど真人間じゃない 完全へ到達できない色彩と 意志を透徹できない人生を前に 精神はドロドロに溶解し 形質を保てず 外へ流れ出す 耐えられず 己を繭のごとく…

軽薄で健康なこころ

ちょっと雨が続いただけで ちょっと外に出られないだけで ちょっと洗濯ができないだけで すぐに憂鬱はやってくる 繊細というか 弱いというか 気分は小さなことで変わり それに右往左往するのがもどかしい 私の気持ちはわがままで 私の思うとおりになってくれ…

いつかのためのルーティン

本当に書きたいことは 垂れ流しのようなルーティンから 生まれ出るものではない 思いもよらぬ衝撃 書かねばならぬ衝動 書きたいという意志によってこそ 読むに適う文章が生まれ出る ではなぜ毎日書くか スポーツ選手が試合に出られなくても トレーニングする…

モヤモヤとした停滞のなかに進む

悩みも不安もなく 心身ともに健康 快活で力が湧き上がってくる そんな時は 一年に何度もない やることに追われたり 悩みを抱えたり 身体がどこか不調であったり あるいは 原因は見当たらないのに どこかだるい やる気が出ない そんな何とも言えない モヤモヤ…

デパートの食堂

昔のデパートには 上の階に大きな食堂があって 大人も子供も 年寄りも赤ん坊も ご飯を食べた お父さんのビールから お子様ランチまで 何でもあって 誰でも入れる ラーメンも スパゲッティも うな重も ハンバーグステーキも 今となっては 専門店で食べるもの…

私は駄作を忘れない

言葉を毎日書けば 上手くいかない日もあるし 書くことがなくて 空っぽの自分に失望もする それでも ひねり出して 表した言葉が 残念ながら 納得できないものであったとしても それはそれは愛しい 愚作でも駄作でも 私の日々を反映し 葛藤も苦悩も 織り込んで…

初めての味

初めてコーラを飲んだ時 美味しいとは思わなかった 初めて烏龍茶を飲んだ時 美味しいとは思わなかった 初めてビールを飲んだ時 美味しいとは思わなかった だけど飲んでゆくううちに 味に馴染んで 味が分かるようになった 食べ物に限らず 初めて体験は 良いの…

徒労の叫び

徒労にどこまで耐えられるだろう 一生懸命 育てた果実が 風に水に流され 耕した土は 水浸しになり これまでかけた 時間と手間が 水泡に帰す 泣いた 泣いた 叫んだ 叫んだ どうにもならない現実 時間は巻き戻せない 備えておけば良かったと どれだけ悔いても…

非常時の享楽

雨降り続く休日 家に篭る 十万年も百万年も昔から 生き物は雨宿りして 天気を待つ 暴力的な降雨は 行動の自由を奪い 屋根の下 不安と鬱屈を抱えながら 有閑を持て余す時は気だるく ただ待機せねばならぬ 拘束の一日は 怠惰で甘美である 幼い頃 風邪を引き 昼…

未来を描く

次の食事や映画 旅行に買い物 未来とは 些細であっても 期待に満ち 欲望や夢を叶えてくれる 明るい展望を描いて 生きてゆきたいものなのに 未来に希望が持てなくて 過去の甘美にすがりつき 未だ昔を想いながら ゆっくりと 沈降する人生の退廃 年をとるほど …