2019-01-01から1年間の記事一覧

ボウイチの空

ボウイチは 空を見る ボウイチが住んでいるのは ビルの底 蓋がされて 見える空は少しだけ だからボウイチは 高いところへ歩いていく 歩きながら空を見て 空がひらけたら また眺める 薄くあおい空 鈍くて白い雲 ゆっくりとまわる天球 しばし見とれて ボウイチ…

ボウイチの旅

かつて ボウイチは 旅の人であった 休みの度 津々浦々 世界中を 見て回った 名所旧跡はもちろん 人の暮らしや食べる物 路地に遊ぶ子供 安酒場で聞く 土地の言葉 どこに行っても 人は生きていて 悩み 楽しむ姿に ボウイチは 安堵と安楽を見出す 世界が広く 人…

ボウイチの銭湯

ボウイチは 銭湯が好きだ 毎日行く いつも行く風呂屋が休みだと 他の風呂に行く 風呂は熱いほうが好き 水風呂がある銭湯しか行かない 銭湯に行けば 帰りに飲み屋に寄る 組み合わせは 必ず決まっている 同じ時間 同じ場所 同じ風呂 同じ酒 同じ食べ物 ボウイ…

ボウイチの酒

ボウイチはよく酒を飲む どんな酒でも飲む 毎日飲む 何でも飲むから いつもは安い焼酎を飲む 薄く割って ちびりちびり飲む おでんをつつきながら 立ち上る湯気に カツオと昆布の香りを嗅いで まず一口 大根に箸を入れると ピュッと汁がほとばしる 一口食べて…

ボウイチのこと

ボウイチは めんどくがりや 掃除も洗濯もしない 片付けることなんかない いつも寝ている 食べるものが無くなると買う 金が無くなると働く ボウイチは人見知り 人付き合いが下手 なるべく人と会わないように生きている だけど寂しい 寂しくて堪らなくなったら…

旅に飛べば

変化のない 日常の息苦しさ 年の瀬も迫り 今年も暮れゆき 木枯らしに 身を晒す寒々しさが 心までも強張らせる こんな夜は 旅に出る夢を見る 行きたいところ 食べたいもの 会いたい人 なにものにも縛られず 心は身を離れて 世界を駆け巡る 四畳半一間から 雪…

文学ならきれいで快適で成功なんてしない

失敗や困難を乗り越えて 過去を省みず 前だけを向いて 歩いていける人 クヨクヨせず 目の前の問題に取り組み 一つ一つ 片付けていく 成功と賞賛を 手中に収めた人たち その影で 過去を引きずり 捨てられず 過去に憑かれ のしかかられて 重たい体を 過去と共…

変わらない日々

変わらない 退屈と安心 変化への 憧れと不安 食べ物一つとっても 人は安定を好むもの しかし 安定に飽き 新鮮な何かを求めている 変わらない日々でありながら 少しの変化にも敏感で 小さく小さく 顕微鏡を眺めるように 些細な出来事に気を配る この繊細さ ち…

青いトマト

その店では いつも青いトマトが出る 淡く緑がかった 輪郭のはっきりしたトマト 青臭い芳香と シャクシャクの歯触りは リンゴにも似て 酸味と甘味がほとばしる 固さも 若さも 青くなければならぬ トマトは 未熟であっても 青さゆえの魅力を持ち それは 完熟す…

街との距離

缶詰の明けた日 街は涼しかった いつも見る いつも通る いつもどおりのはずが 距離があった 街と自分が離れてしまっていた まだ戻ってきていないのだった 浮遊して 地に足がついていない 違和感がまとわりついたまま 彷徨った 角のお地蔵さんも 煎餅を焼く匂…

名残りの白粉花

日が陰り そわそわする頃に 花開く 濃い桃色の 小さな花が 散り散りに 甘い微香を放ち 夕辺に隠れた白粉花 風呂に入り 一杯飲んで帰れば すっかり暗くなった 夜の中に 白粉花が咲いている 陽射し低く 夕暮れ早まる季節に 夏の暖気を惜しむように 黒い種を抱…

連鎖の常

良いこと 悪いこと 順番に訪れることはない 天災も人災も ちょっとしたミスも 行き違いの不愉快も 悪いことは重なって 続けざまに訪れる ああ 嫌な流れ 灰色の世界から 血が滲む 傷ついた皮膚に 塩が塗られ 疼きは大きくなり 痛みだす 分かっている こんなこ…

続ける

忙しくても 疲れていても 気持ちが切れそうになっても 己に絶望しそうになっても 何も意味が見出だせなくても 諦めないで 続ける もう意味なんかいい 生産的か否かも関係ない 前に進んでいるのか 後ろに下がっているのか 堕ちているのか 怠惰なのか およそ …

熱風呂と水風呂

熱い風呂のなかで 何も考えられない 気を失いかけて 水風呂にたどり着く 冷たさは 感じない 火照りを冷ます 心地よさ オーバーヒートした身体が 回復していく 元に戻る快楽 暑さと寒さを往復する贅沢 やがて体は 熱を奪われ 寒さを身に纏い 水の中に留まる …

凝りほぐせない夜に

魂が凝り固まるほど 視線は窄まり 大事なことを 捉えていると思っていても 実のところ お定まりの 借り物の 誰もが言う教訓を 繰り返すだけ 広く 柔らかく 自由でいられるなら 辺境の 小さな石ころ一つ 道端の雑草一つ 何気ない 日々の生活の一片より 心が感…

生まれ落ちて

生まれ落ちて 人の醜さに触れる時 今いることの後悔と これまでの我が歩みが 白々しく 無意味に思え 生は空虚となった わがままと嫉妬は それなりで収まるなら 人間らしさと 時には可愛らしささえ 演出する だが 恨むほどに強まるなら 人は嫌気がさし 近寄り…

冬が来た

冬の気配 その徴は 色づく葉でも 朝晩の冷え込みでもなく 大きく息を吸い込んで 鼻の奥に届く 痛みにも似た つんとした冷たさ 大気が澄んで 冷えてきて 息をするたびに感じる 毎日生きて 毎秒吸って ただ繰り返し 繰り返し続けて 変わらぬつもりが 確実に変…

見方

バラの花は育てられなくても バラの花に 美しさを見つけるのはわたし 世界を創造できなくても 世界の中に 居場所を見つけるのはわたし カラカラに乾いた砂漠に 水を撒くのが不毛だとしても 疲れ痺れきった脳髄に 言葉をかける 現実を変えず 現実の見方を変え…

幸福の下に文学は育たぬ

満ち足りたなら 訴えることなどない 飢餓も 渇望もない精神から 燃える言葉など 出てくるはずもない 強く 切実に どうしても 表さずにはいられない 魂の叫び 生きたいのに 生きれぬ 生を飛び回りたくとも ままならぬ 自分が生きているんだと 言わずにはおれ…

抜け殻

魂は どうしたら消耗するのだろう 人と摩擦を起こすことか 押さえつけられ 苦しめられることか 世に出て間もない 子供の目は キラキラと輝いて見えるが 年を経るにしたがい 輝きは摩耗し 鈍り 動かなくなる 何にでも 楽しい思いを乗せられたあの頃 未来は明…

雨中移動

豪雨は 全てを奪ってゆく 目の前は水のカーテン 轟音の世界 走った 車に全てを託した 行きの道は通れなくなった 人のいる場所に出たかった 濁流が暴れている 側溝は噴水 水の中を 走った すれ違う車が 煙を吐いた 道が水に埋まってゆく 追い込まれ 追い詰め…

箸はつなぐ 食べ物と口をつなぐ 箸はつなぐ 食べ物を挟めば 二本の間がつながる 二本の棒きれ ありふれた雑器 毎日 何千回何万回 箸を使わぬ日はなく 箸を要らぬと思ったこともなし これほど必要とされながら 箸はただの道具であって 交換可能で 決して主役…

きつつき

叩く どこかで 叩く音がする 真夜中の マンション ひと気もなく 寝静まった闇に コンコンコンと 叩く音が響く 聞いていれば 聞いているほど 胸の奥から 抑え込んでいた感情が 顔を出す 過去の記憶 遠くを夢見ていた追憶 焦燥に駆られ 心を焦がした夜 キツツ…

迫りくるもの

前から ずっと見えている 時を経て 近づいてくる 私は自由だ だだ広い 何もない空間で 思うままに跳ね 描ける はずだった 今でも見えている だいぶ近くなった 分かっている 終わりは必ずくる 見ないようにしていた 不安を忘れようとしていた 最後だけ見てい…

凡庸であっても

悲しいかな 上手く書けない 怠惰と 才能のせいにして 悦に浸るのはいつものこと 凡庸は 惰性になびいて 毎日 意味を持たぬ文を 生産し続ける ダメであっても 好きなら良かった くだらなくとも 自己愛をひたすら確認していた 今はもう 好きか嫌いかも分からな…

荒れ狂う涙

わがままな人がいて 喋りだすと止まらない 相手の話は遮って 同じことを繰り返す 話す度 相槌を打つのにも疲れ 下を向いて 黙っていた 他の誰かと 話していると どうして私の話を聞かないのか なぜ私を無視するのか 泣いて 叫んで 荒れ狂う いや あなたが嫌…

バビ猫

バビ猫は いつも寝ている 大きなイビキをかく 臭い息を吐く 毎日毎日 ゴロゴロと 腹を出して寝ては 出された餌を食い またイビキをかいて眠る 何もしないし 人にも構わない 寝ていなければ 座って 窓の外を見ている 話もしなければ 鳴きもしない 寝ている時…

Free ride

ただ飯 ただ乗り 無料と聞けば ワサワサと集まってきて 欲望を発散する皆さん そして フリーライドを 意地汚いと批判する皆さん 人が良い思いをしているのを 間近に見て嫉妬する皆さん 公園の炊き出しで 人を睥睨する皆さん 仕事もしないで ただ飯にありつく…

やる事

一日中 馬車馬のようにこき使われて 疲労困憊 延々と続く単純作業 肉体労働の単調なリズムは 屈んだ腰に 丸めた肩に 鈍痛をもたらし それはやがて 背中を 鉄板入りのガチガチにしてしまう 悲鳴なき悲鳴を 終わること無き労働は 人を機械へ変え 感覚も感情も…

自棄の時期

ああ もうたまらない 堕ちていく 欲望のまま 抑えきれず こらえきれず いつまでも どこまでも ひたすら 堕ち続ける 自制など忘れた 着実な歩みなど考えたくもない ただ欲望だけが 体に残り 半端なまま くすぶり続けていた どうにかしなければならなかった 堕…